今週、米国は感謝祭。これは日本でいうところの盆暮れ正月並に都心から人々の姿が消え、観光地が静まり返り、大勢が親戚縁者や故郷の古い友人と団らんのひと時を過ごす休暇だ。そしてこの感謝祭が終わった直後の金曜日がブラックフライデー。クリスマス商戦の幕が切って落とされる日で、米国で最も多くのショッピングが行なわれる時期だ。狙っていた商品が売り切れにならないように、この金曜日に列をなして買い物をする人も多い。
唐突に製品発表をしているようにも見えるアップルも、実はすべての新製品をこのブラックフライデー前には発表し終え、その多くは販売や予約の開始を行なっている。2013年発表の製品もプロ用のMac Pro以外はすべて無事販売が始まっている。
一番最後に発売された「iPad mini Retinaディスプレイモデル」については、あまりにも販売開始が唐突過ぎたためレビュー記事を書くタイミングを逃してしまったが、ここで改めて2013年のアップル製品の魅力を振り返ってみたい。
大きさが変われば使い方も異なる
NTTドコモが扱うようになったことで、もはや誰にも止められない勢いを得た2つのiPhoneについては、すでにレビューを掲載している(どちらも期待を裏切らない“正統進化”——林信行の「iPhone 5c/5s」徹底レビュー)。
それでは、その後に発表があった2つのiPadについてはどうだろう。そもそもiPhoneをすでに持っている人が、iPhoneの画面をさらに大きくしたiPadが必要なのだろうか?
答えはもちろん、人によって違う。だが、もしiPhoneと2つの異なるサイズのiPadのすべてを持っていたら、きっと生活も仕事も、さらに輪をかけて快適になることは間違いない。
その理由が分からない人は、紙の帳面を例に考えてもらうと理解しやすいかもしれない。手のひらにスッポリ収まるメモ帳なら電車で立って移動しながら、パっとひらめいたアイデアを書くのに便利だ。だがそのメモを元に、さらに想像を広げてアイデアの枝葉を広げるとなると、もう少し大きな、最低でもB5サイズくらいの帳面が欲しくなる。
それでは手のひらサイズとB5サイズがあれば、すべての用件を満たせるだろうか。このアイデア帳を会議室に持ち込んで、ほかの人たちに見せようとすると、1度にのぞき込めるのはせいぜい3〜4人だろう。もっと大勢で見るためにはもっと大きなサイズの紙や、模造紙、ホワイトボードを使いたくなる。
このように「紙」という同じ材質の文具でも、サイズが異なればそれだけで使うシーンも、用途も、使い勝手もそれぞれ異なってくる。アップルがiPhoneに加えて、2つの異なるiPadも出しているのは、まさにそんな理由からだ。
ここで想像してみてほしい。さきほどの紙のノートが、手のひらサイズは罫線入りだけ、B5サイズは方眼紙だけ、もう少し大きいサイズはすべて無地だけといった具合に区別がついていたら、使う人は喜ぶだろうか。
ある人は方眼紙が使いたくて、本当は手のひらサイズが欲しいけれど、意に反してあえてB5サイズを選ぶことになるかもしれない。あるいはある人は、もっと大きなノートが欲しかったが罫線入りが使いたくて、小さいメモ帳でガマンすることになるかもしれない。サイズによって仕様やパフォーマンスを変えると、かえってそこに迷いが生じ、モノを選びづらくなる。
それにも関わらず、2012年のアップルは、おそらくどこかでiPad miniがiPadという製品と競合することに若干の恐れを感じ、あえて2製品でCPUなどの仕様を変えていた(実際には、それ以上に大きかったのは、Retinaディスプレイの有無かもれない)。
しかし、2013年はiPad miniの7.9型サイズでも、ほとんど価格や重さを変えずにRetinaディスプレイが搭載できるようになったことを受け、そしてさらにおそらくはこの1年で多くの人々が7.9型には7.9型のよさがある一方で、9.7型にも9.7型ならではのよさがあると十分伝わっただろうという感触も後押しして、CPUや解像度といったスペックを同じ内容でそろえてきた。
もはや、ユーザーが悩む必要があるのはサイズだけなのだ。
そのどちらもが「理想」
それでは、あなたにはどのサイズのiPadがピッタリか。もしあなたが財政的に余裕があるのであれば両方を買って使い比べてみるのが1番いい。両方持っていれば、その日の気分によって、今日は小さいバッグで出かけたいからiPad mini、今日は7〜8人の会議で資料を見せたいからiPad Airというように使い分けができる。
ここで素晴らしいのは、最近ではiCloudやGoogle Docs、Dropboxといったクラウド系サービスの利用が広がっていることだ。例えば、iCloudに対応したアップルのビジネスアプリ群、iWork(文書作成アプリのPages、表計算/表作成アプリのNumbers、プレゼンテーションスライド作成アプリのKeynote)で作業をしていれば、iPad Airで作成した書類が、数秒後にはiPhoneでも、iPad miniでも、Macでも、そしてWebブラウザベースのiWork for iCloudによってWindowsからも利用可能になる。
iWorkのアプリ群は、できあがる書類の見栄えに関してはほかのビジネス系アプリを圧倒する美しさで定評があり、できあがった書類はWord、Excel、PowerPointの形式で書き出すこともできる。
実際、iOS機器やMacでのiWorkの連携は、1度でも使えば病みつきになる。この文書もMac上のPagesで書いているが、そのおかげで、原稿を中座してディナーへ向かう途中、書きかけの原稿をiPhoneで見直したり、iPadを使って道すがら思いついたアイデアを忘れないうちに書き足しておくこともできる。
iCloudは自分専用に作られた“おひとりさまクラウドサービス”なので、1度設定してしまえばIDやパスワード入力の手間にわずらわされることもない。たまに複数の機器で同時に作業してしまうと「どちらの機器でつくったバージョンを残すか?」と聞かれることがあるが、それ以外は使用機器の違いをまったく意識せず自然に行なえる。この輪に入るとあまりにも快適過ぎて、もはやほかのアプリは使えなくなってしまうほどだ。
それどころか、このiWorkの快適さの罠にハマると、まさにiPhoneと2種類のサイズのiPadすべてをそろえて、その日のシチュエーションによって使う機器を取り替えたくなってしまう。そう、実はすでにiPhoneを持っている人は、iPadを併用することで、iOSの魅力や楽しさを、さらに増幅させることができるのだ。
Copyright© 2013 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.