連載「そのひとことを言う前に」
職場で感じるストレスの原因は、うまくコミュニケーションがとれないことによるものが多いようです。本連載では、伝え方や接し方、聴き方に至るまで職場でよくあるエピソードをもとに、仕事や物事がより円滑に進むようなコミュニケーションのヒントをご紹介します。言葉を受ける側の立場や気持ちを理解し、自分が発する言葉について見直してみてはいかがでしょう。
新しい年度が始まって数カ月。上司として、新しく入ってきた部下に対していろいろな支援や気遣いをしてきたつもりが、思った以上に伸びない——そんな経験はありませんか?
言われたことは普通にこなすけど、それ以上のことをしてくれない。もっと自分から興味を持って、どんどんチャレンジしてくれると思っていたのに……。前評判が高かっただけに、正直期待外れのようにも思えてしまう。こんなふうに、相手に対して諦めが入りやすいこの時期。今回の記事では、人が育ちやすい環境について考えてみましょう。
部下をつぶす“ゴーレム”の呪文
突然ですが、人には“相手から期待された成果を出しやすい”という性質があることをご存じでしょうか。
1964年、米国サンフランシスコの小学校でこんな実験が行われました。児童に知能テストを行ったあと、無作為に数名の生徒を選び、教師に「今後数カ月で学力が伸びる子ども達です」と嘘の情報を与えました。結果、期待を込めて教えられた子ども達は、元々の学力とは関係なく、本当に成績が伸びました。
こうした現象を、教育心理学の世界では「ピグマリオン効果」と呼びます。言葉を耳にしたことがある人もいるのではないでしょうか。無意識ではありますが、教師のポジティブな気持ちに、子ども達は影響を受けたのです。
恐ろしいのは、この逆のパターンもあることです。無意識でも“この子は伸びない”と思われた子ども達は成績が伸びにくくなる傾向が出てしまう。これを「ゴーレム効果」と呼びます。大人だろうと同じようなものです。口に出さずとも「思った以上に育ってくれないなぁ」「正直期待外れだったなぁ」と思われながら日々を過ごしている人は、無意識にその思いを感じ取ってしまい、成長しにくくなってしまうでしょう。
言っていないのにどうして相手に分かるの? と思われる人もいるかもしれませんが、雰囲気などで相手に悟られるだけでもアウトです。過去の連載でも紹介していますが、ちょっとした表情、口調、姿勢、しぐさなどでも伝わってしまいます。
相手に直接言わなくても、自分の周囲の人にそんな話を漏らせば、最終的には悪影響を与えかねません。例えば、飲みの席で次のような話をしたらどうなるでしょうか。
「最近入ってきたA君がさ、なかなか期待通りに育たないんだよねー」
「ああ、うちもそうだよ」
「最近の若手はさー……」
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