「選ばれる空港づくりには、利用者の満足度向上が欠かせない」── 5月30日、都内のホテルで行われた「IBM Connect Japan 2013」カンファレンスの基調講演で成田国際空港の肥田達矢主席はそう話した。肥田氏は、最新のITを活用して利便性向上を目指した「i-Airport」プロジェクトの一環として、昨年6月から始まったiPadによる旅客案内サービスの情報企画を担当する。
規制緩和と競争原理の導入が市場を活性化するとともにサービス向上という恩恵を顧客にもたらすことはよく知られている。普段はあまり意識することもないが、空港も航空会社から着陸料や停留料を、旅行者からは使用料を受け取り、さまざまなサービスを提供している民間企業だ。先週、開港35周年を祝った成田国際空港も空港間の競争にさらされている。
成田国際空港には76社の航空会社が乗り入れ、世界98都市を結んでいる。1日の旅客数は9万人に上り、「日本の空の玄関」という座は当分揺らぎそうにないものの、航空会社が路線や便数を自由に決められる航空自由化(オープンスカイ)も進んでいる。来春には羽田空港国際線の発着回数がこれまでの1.5倍、年間9万回に増枠されるほか、仁川や上海・浦東といったアジア主要空港との競争も激化している。成田国際空港も、この3月から発着回数を27万回に増枠、さらに15年3月には30万回を目指して、LCC(格安航空会社)向けを含めたターミナルビルなどの整備を進めているという。
選ばれる空港づくりには、こうしたハードウェア面の整備もさることながら、利用者にとっては「分かりやすい」「速い」「優しい」といったソフトウェア面が極めて重要だ。成田国際空港でも2010年からi-Airportプロジェクトをスタートさせ、テレビ電話案内システム、デジタルサイネージ、無償Wi-Fiなどを導入、利用者の利便性を図ってきた。昨年からはスマートフォン向けアプリにも力を注いでおり、フライト情報や館内マップが利用者に便利な公式アプリ「NRT_Airport Navi」や多言語音声翻訳アプリ「NariTra」がApp StoreやGoogle playからダウンロードできる。
既存のNotes/Dominoアプリを生かす
しかし、初めての空港で頼りになるのは、やはりインフォメーションカウンターだろう。成田国際空港には、大きな「?」のマークが目印のカウンターが第1ターミナルだけで10個所以上も設けられており、PCを利用した情報提供はもちろん、車椅子やベビーカーも貸し出している。また、広いターミナルなので案内スタッフが巡回するサービスも行われている。
昨年6月、iPadが導入されたのは、この巡回案内だ。これまでは、紙の資料や携帯電話に頼っていたが、カウンターで活用しているIBM Notes/DominoのシステムをiPadからもアクセスできるようにすることで、最新のフライト情報や忘れ物の情報などもリアルタイムで提供できるようになったという。
成田国際空港では、社内の情報基盤としてNotes/Dominoを導入しており、案内カウンターでもこれを活用している。
「あらゆる業務に深く根付いたNotes/Dominoのデータをそのままモバイルでも有効に活用したかった」と肥田主席は振り返る。
Notes/Dominoのモバイル対応にはさまざまなソリューションがあるが、ユーザーの使い勝手を考慮し、PCと同じ画面イメージでそのままWeb化できるNotes/Dominoの標準機能を使うことにした。
「コストや開発期間も懸念したが全くの杞憂だった。既存のNotes/DominoアプリケーションをそのままWeb化、わずか3カ月でモバイル対応できたほか、標準のWeb化機能を利用したのでメンテナンスも最小限で済ませることができる」と肥田氏。
旅客への案内サービスが向上したのはもちろんのこと、スタッフが巡回しながら現場で見つけた問題や気付きを、iPadのカメラ機能も生かして報告・共有するという、業務改善の取り組みも自発的に行われるようになったという。
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