2013年もあと1週間。そこで今回は、来るべき2014年のクラウド市場がどう動くかについて、IDC Japanが12月18日に発表した国内IT市場の予測(10項目)からクラウドに関する項目を2つピックアップし、それぞれに筆者の見解も加えておきたい。
“大地核変動”をビジネスチャンスに
まず1つ目は、「多様なクラウドの融合が進み、ベンダー間の競合状況は新しい局面を迎える」との予測である。この予測についてのIDCの解説の概要は次の通りだ。
「現在、新規ワークロード向けパブリッククラウドIaaS/PaaS市場では、Amazon Web Services(AWS)が圧倒的に大きな存在感を示している。一方、既存のソフトウェア資産のクラウドへの移行では、サーバ仮想化を牽引してきたヴイエムウェアやマイクロソフトのテクノロジーが強い」
「この背景には、SOA(Service-Oriented Architecture)/ 疎結合による新しいアーキテクチャを基盤としたAWSクラウドでは、既存資産の移行が困難だったことが挙げられる一方、既存資産の継承性に注意を払い、仮想化から発展したクラウド環境ではDevOps(開発運用連携)や新しいフレームワークへの対応が難しかったことが挙げられる」
「多くのソリューションベンダーにとって、標準化されたプラットフォームの上で差別化を図ることが求められる。中でも組織/産業/業際に対してITを用いた新たな価値を提案する業種特化型ソリューション(Innovative Industry Solutions)が重要であるとIDCは考える」
「Innovative Industry Solutionsでは、これまで個別あるいは限定的に連携し、進化を遂げてきた第3のプラットフォームの各柱(クラウド、モビリティ、ソーシャル技術、ビッグデータ)を有機的に融合する」
「2014年、ベンダー間の競合状況は、クラウドプラットフォームから第3のプラットフォーム、さらにはInnovative Industry Solutionsへとシフトするであろう。ベンダー各社は、第3のプラットフォーム、Innovative Industry Solutionsの戦略を明確に打ち出し、具現化に取り組む必要がある」
この予測については、「標準化されたプラットフォームの上で差別化を図ること」が最大のポイントといえる。その認識の下、第3のプラットフォームとInnovative Industry Solutionsの関係は、技術と市場を掛け合わせた戦略ととらえることができる。すなわち、掛け合わせた上でユーザーニーズに応じたきめ細かいソリューションをいかに打ち出せるかが鍵になるといえそうだ。
つまりは、クラウドの下でIT市場が再構築されるわけである。この“大地核変動”を新たなビジネスチャンスにつなげることができるかどうか。ベンダーのサバイバル競争の焦点はそこにありそうだ。
ホステッドプライベートクラウドが主戦場に
2つ目は、「データセンター事業はハイブリッドクラウドへと向かう」との予測である。この予測についてのIDCの解説の概要は次の通りだ。
「データセンター事業によるサービスの利用形態に関する重要な変化として、2014年以降、ハイブリッドなシステムの構築/運用が増加するとIDCではみている」
その上で、IDCは2014年以降に起きるであろうハイブリッドシステムの増加を推進する変化を次の3つの観点でとらえている。
(1)パブリッククラウドIaaSの受容性の急速な高まり
パブリッククラウドIaaSは、これを採用する際のボトルネックであったセキュリティ、サービスレベル、パフォーマンス、既存ソフトウェアの実装などを克服することで、エンタープライズのニーズへの対応力を高めている。データセンターサービス市場では2014年以降、AWSをはじめとするパブリッククラウドIaaSが急成長する。
(2)専有ホスティングのディスクリート化
専有ホスティングにおいてはクラウドの機能を求めるユーザー企業によるディスクリート型のホステッドプライベートクラウドの採用が増加し、中長期的にはこれが主流になっていくとIDCではみている。専有システムにおけるホステッドプライベートクラウド利用の増加が、ハイブリッドシステムの構築/運用のハードルを下げると考えられる。
(3)ハイブリッド接続ニーズに対応するネットワークの提供
ハイブリッドシステムの構築では、セキュアかつQoS(Quality of Service)を担保したネットワーク接続が容易なことが重要である。今後、数年間にさらなるITベンダーのSDN(Software-Defined Networking)ソリューションの進化や、通信事業者のVPNサービスへの機能拡充によって、データセンター/クラウドサービスベンダーが上記のようなネットワーク機能を顧客に提供できるようになるとIDCではみている。
この予測については、筆者も特に(2)の動きに注目している。ホステッドプライベートクラウドは、ユーザー企業がIT資産を所有しないことから「持たないプライベートクラウド」ともいわれる。IDCが予測する通り、この形態のサービスが今後クラウド市場で主戦場になると筆者もみている。
取りも直さず、この動きは日本のデータセンター/クラウドサービスベンダーにとって、新たなビジネスチャンスになるのではなかろうか。というのは、主戦場だけに激しいコストパフォーマンス競争にさらされるだろうが、一方でユーザー企業個々へのきめ細かい対応が強く求められるようになってくるからだ。それこそ、日本のベンダーが得意とする「おもてなし」の発揮のしどころだろう。
逆に言えば、ホステッドプライベートクラウドの領域で存在感を持つことができないと、日本のベンダーのクラウド事業は成り立たないのではないか。それくらいの覚悟を持って臨むべきだと考える。
以上、私見も加えて2014年のクラウド市場予測の勘所をまとめてみた。良いお年をお迎えいただきたい。
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