LTEの普及が本格化している。高速通信、大容量などの優位性を持つLTEだが、キャリアが置かれている立場はここ数年で大きく変わっており、単なる新世代のネットワークの提供だけではなく、LTEを軸にどんなサービスを提供するかが重要になっている。米サンフランシスコで11月中旬に開催された「Open Mobile Summit 2013」で、LTEで先行した米国のVerizon WirelessとT-Mobile US、そしてNTT DOCOMO USAのPresident&CEOを務める前田正明氏が、LTE時代のキャリアのあり方について、それぞれの見解を語った。
月額10ドルで年に2回機種変更できる——T-Mobileの「JUMP」
パネルに出席したのは、NTT DOCOMO USAの前田氏、米国最大のキャリアであるVerizon WirelessでOTTとメディア担当コーポレート戦略ディレクターを務めるChris Melissinos氏、そしてT-Mobileのプロダクトマネジメント担当シニアバイスプレジデント、Jason Young氏の3人。
スマートフォンの登場により、OSとアプリストアを持つプラットフォーム(主にAppleとGoogle)が直接顧客と関係を持つようになり、キャリアの立場が大きく変わった。「Firefox OS」をプッシュするMozillaのMitchel Baker会長は同イベント中、「キャリアは横に追いやられた」とその立場を形容している。ネットワークを提供し、プラットフォームを提供するAppleやGoogleと顧客をつなぐ単なるダムパイプ(土管)になるのか、そうでなければ新しい時代のキャリアの役割は何か——。
ソフトバンクによるSprint Nextelの買収など、米国の通信業界は再編の波にある。4大キャリア中シェアが4位のT-Mobileは2013年、“UnCarrier”(キャリア脱却)をすべく、攻めの施策を次々と打っており、MetroPCSとの合併を完了した。
Young氏は「ビジネスモデルを改革している」と述べ、米国で一般的な2年契約と販売補助金の廃止や、最大で年に2回の機種変更ができる「JUMP」、10月に発表した国際データローミングの追加料金の廃止などを紹介した。JUMPは同社が7月に発表したサービスで、毎月10ドルの支払いで、6カ月が経過すれば、新規ユーザー向けの価格で新機種を購入できるというもの(T-MobileのWebサイトを参照)。これまで使っていた端末を下取りすれば、残りの分割金を支払わずに済む。JUMPは導入以来、250万人が加入したという。
同時に、T-Mobileはキャリアの基本事業であるインフラ整備も進めている。全米レベルでLTEネットワークを構築しており、ネットワークと上述の価格プランの改革を通じて、「この6カ月で200万人の新規顧客を獲得した」とYoung氏は胸を張る。これは4大キャリアの残り3社の合計を上回るという。「顧客の声を聞き、顧客が接続するための新しい方法を提供する。素晴らしいネットワーク、革新的な料金体系、革新的な端末をそろえる」と自社の方針を語った。
ドコモがABCクッキングを買収した理由とは?
NTT DOCOMO USAの前田氏は、日本最大手のキャリアとしてドコモの戦略を次のように語った。「ドコモの戦略は最高レベルのインフラを提供すること。LTEの(人口)カバー率はすでにほぼ100%に達しており、素晴らしいインフラがある」
前田氏はこのインフラを“プラットフォーム”とし、「このプラットフォームの上にコンテンツやサービスを作っている」と続けた。そこでカギを握るのが「docomo ID」だと同氏は考える。docomo IDはドコモのサービスを利用するための認証基盤であり、ネットワークやデバイスを問わないだけでなく、ドコモと契約していないユーザーに向けても提供する。ドコモはこれを「ネットワークフリー」「デバイスフリー」「キャリアフリー」としている。
コンテンツやサービスの例として前田氏が挙げたのは、動画サービス分野(ワンセグやNOTTV)での展開と、ABCクッキングスタジオの買収だ。2年前に開始した“スマホ向け放送局”を標榜するNOTTV(モバキャス)については、インタラクティブ性、シフトタイム視聴などの特徴をアピールしたものの、加入者数や収益性などについては明言を避けた。
ABCクッキングについては「(ネットワークキャリアの)ドコモが料理教室を買収? と驚かれたが……」と苦笑しながら、「ダムパイプの上に素晴らしいコンテンツやサービスを構築したい」と狙いを語る。そして、「我々の将来がダムパイプか、それともネットワークかはコンテンツやサービスにかかっている」と述べて、LTEやLTE-Advancedなどのインフラと同様に、サービスにもフォーカスしていく方針を明らかにした。
前田氏は冒頭、1999年に自社がスタートして世界の注目を集めたiモード、国際的に注目を集めているLINEなどの日本のサービスも紹介した。LINEでのドコモダケスタンプの提供などを紹介しながら、「絵文字(emoji)は日本から世界に輸出した技術。(LINEの)スタンプも米国に登場するかもしれない」と述べた。「日本やアジアでは、プラットフォームは(北米のようにPCではなく)モバイルになっている」と、世界的にみた日本市場の先進性もアピールした。
コンテンツ提供だけでなく“パーソナライズ”も重要
動画については、T-MobileのYoung氏も、2013年のCESで発表したMajor League Baseball(MLB)との提携を紹介した。「野球は米国で最も消費されているコンテンツ」と同氏は述べた。また、LTEのパワーを土台に、端末からリアルタイムでの情報取得、ハイライトコンテンツへのアクセスを提供していることにも言及した。
Verizon WirelessのMelissinos氏は、単なるコンテンツの提供にとどまることなく、パーソナライズが必要と強調した。「コンテンツが民主化されており、技術(ネットワーク)はコモディティ化している時代。どうやってユーザーが重要と思うものを提供できるかが大切」と話す。具体的なサービスや計画は語らなかったが、「次の時代は、"over the top"(ネットワークの上)で提供される次世代サービスと、従来のコンテンツ利用が組み合わさる」と考えを述べる。「パーソナライズされたサービス、確実なアクセスとコンテンツを満たす品質を実現するのが、次世代のプラットフォーム。LTEはコンテンツ配信の世界と常時接続の世界の橋渡しとなる技術だ」と続ける。
重要なのは、サービスが商品として消費者に分かりやすい形で提供されることだ。これをMellisinos氏は、Appleがデジタル音楽の門戸をiTunesで開いたことに例える。「合法的な入り口、品質、インタラクティブ性、パーソナライズなどの機能があれば消費者はお金を払うことをいとわない」(Mellisinos氏)。一方で、広告やコンテンツ業界は技術の進化に追いついていないとの見解も示した。
プライバシーやセキュリティへの懸念は「微妙な問題」だとYoung氏は言う。「(キャリア側には)膨大な顧客データがある。これを顧客へのメリット改善に役立てるなら好意的に受け止められるだろうが、少しでも間違えると快適に感じてもらえない」と警戒する。Melissinos氏は「どのように重要な情報を保護し、ユーザーのためにシステムが動くようにするのか、教育や啓蒙が大切になる」と付け加えた。
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