スマートフォンやタブレットに専用のカードリーダーを取り付けることで、クレジットカード決済サービスを提供できる——。こんなシンプルで安価な店舗向けモバイル決済ソリューションが、じわじわと普及しはじめている。
ビジネスメディア誠 Biz.IDでは、ソフトバンクグループとPayPalが協業して国内展開を推進しているモバイル決済サービス「PayPal Here」について、数々の活用現場を紹介してきた(記事1、記事2、記事3参照)。今回は、7月26日(金)〜28日(日)に横浜大さん橋客船ターミナルで開催されたハワイアンイベント「ALOHA YOKOHAMA」での活用の様子をリポートしたい。
ALOHA YOKOHAMAは、例年のべ30万人超が訪れるという、人気の期間限定イベント。会場内には500円のハワイアンビールをはじめ、ジュエリーや食品、ドレス、雑貨などを販売する店舗が所狭しと並び、来場者は気に入ったアイテムをその場で購入することができる。
このイベントでPayPalとソフトバンクは、PayPal Hereのイベント会場ならではの活用に加え、両社が今後、利用拡大を目指している新たな決済サービス「チェックイン」も紹介。“顔パス決済”として知られるこのサービスを一部の店舗が導入し、その手軽さをアピールした。
PayPalの“顔パス決済”「チェックイン」とは
チェックインは、スマートフォンさえあれば、お店を訪れたお客が財布を出さずに商品の代金を支払えるという決済サービス。店舗側も、小銭を用意したりクレジットカードをスワイプしたりすることなく決済処理をできるのが便利な点だ。
使い方はこうだ。お客はまず、PayPalアプリを起動し、「お店情報」をタップしてチェックインが使える近くのお店を探す。お店が見つかったらアプリ画面の右側に表示されるピンアイコンを引き下げて“チェックイン”する。あとはそのお店に行って、買いたい商品をレジで伝えるだけで支払いが終了する。レシートは、店に対応プリンタがあれば紙で出力され、なければスマートフォンにメールで送信される。
利用者側のPayPalアプリ画面 店舗側のPayPalアプリには、お客がチェックインするとその旨が通知され、お客の顔写真がアイコンで表示される。表示されたアイコンと同じ顔のお客が来店したら、顔アイコンをタップして商品の値段を入力し、「支払い」ボタンを押せば、決済処理は終了。お客は店では財布もスマホも出さずに支払いができてしまうのだ。
店舗側のPayPalアプリ画面。赤い数字と顔写真のアイコンでチェックインした人が分かる。来店者が顔写真アイコンと同一人物であることを確認したら決済処理を開始する スマートフォンのイヤフォンジャックにカードリーダーを取り付けて決済するいうモバイル決済の手法は、今やPayPal Hereのほかにも楽天スマートペイやSquare、Coineyなどの競合サービスが登場し、シェア争いは熾烈を極めている。こうした中、PayPal・ソフトバンク陣営は、新たな決済手法の「チェックイン」や、その先に控える「Order Ahead」を提案することで、PayPalの導入で先駆けた優位性をさらに高めていく考えだ。
課題山積の“イベント会場の物販”、PayPal Hereが解決
今回、ソフトバンクとPayPalは、初めてイベント会場でのPayPal Hereの活用をサポートしたという。出展社向けに説明会を開き、自らも会場にブースを出展。その結果、イベント会場では約20カ所の店舗がPayPal Hereによるクレジットカード決済を提供することになった。
さらに一部の店舗は“顔パス決済”のチェックインも提供するなど、来場者に新たな決済サービスの世界を紹介。ソフトバンクとPayPalは、来場者がチェックインの手軽さをその場で試せるよう、イベント期間中にiOS端末でPayPalに新規登録したユーザーに500円をプレゼントする施策で導入店舗を援護していた。
イベント会場での物販にはいくつかの課題がある。まず、現金決済では、店舗側のお釣りの準備が欠かせない。来場者にしても、気に入った商品が高価で現金の持ち合わせがなければ、購入を諦めるしかない。
では、クレジットカード決済であればどうか? 期間限定のイベント会場で、クレジット決済を行おうとすると、出展社は決済端末を会場内に持ち込み、主催者が会場内に用意した専用回線を追加料金を支払って利用する必要があった。
スマートフォンやタブレットの通信機能を使うPayPal Hereであれば、こうした余分な手間やコストがかからない。利用者の中には“スマートデバイスのイヤフォンジャックにカードリーダーを差すだけ”という仕様に安全面の不安を感じる人もいるというが、「カードリーダーには高度な暗号化機能が搭載されている。決済の状況についても不正利用防止のため、PayPalが24時間365日監視している」(ソフトバンクモバイルのマーケティング担当大塚氏)ことから、安心だという。
会場内には随所にソフトバンクのWi-Fi端末が設置され、決済に欠かせない通信回線の増強を図っていた PayPal Here決済、「ゲームっぽくて楽しい。もっと普及してほしい」と来場者
ハワイアンミュージックが流れ、熱気に包まれた会場で実際にPayPal Hereを使っている店舗や来店者の反応を聞いてみた。
アロハストリート店長の大野氏。この店では、“顔パス決済”のチェックインも提供していた。ブースの目立つところに500円のビールを並べ、来場者がPayPalの入会特典で得た500円でハワイアンビールを購入する姿が見られた 普段はショッピングモールに店を構える「アロハストリート」。店長の大野氏は導入のメリットについて、これまでイベント会場でカード決済サービスを提供する場合には、回線利用料が別途かかることが多かったが、PayPal Hereを利用することで、余分なコストをかけずにお店と同様の決済サービスを提供できるようになったという。
イベントでのPayPal Hereの利用は今回が初めてだったが、1日平均30件程度がPayPal Hereによる決済となるなど、利用状況は上々だ。また、店舗を運営する上では、「カードの利用分が早ければ即日、遅くとも1週間以内に入金されるところが非常に魅力的」と話してくれた。
ハワイの食品や雑貨がところせましと並ぶ店内(画面=左)。この店ではレシート発行用の専用プリンタ(2万9760円)も導入していた(画面=右) 各地のイベントに出店しているTO SEA。ハワイアンドレスなどの衣料を扱うため顧客単価が1万円前後と比較的高く、同社代表の上口氏はカード決済のメリットを強く感じているという。「去年までイベント会場では現金決済のみだったが、PayPal Hereの採用で客単価が上がった」(上口氏)。今まで別料金を支払っていたカード決済端末のための回線や、その配線に頭を悩ませる必要がなくなったのがうれしいと話す。
ハワイアンドレスを中心に扱うTO SEA 代表の上口氏 ドレスやアクセサリーを販売するTO SEA。レジ脇にPayPal HereのPOPを設置し、クレジットカード決済ができることをアピール 直輸入のハワイアン雑貨を扱うmalulaniを運営する森下さんは、PayPal Hereの日本でのサービス開始を知って、すぐ申し込んだという。単価が高い商品も多いことからカード決済によるメリットは大きいといい、今回のイベントでも購入者の約7%ほどがクレジットカード支払いをしているという。
ハワイアン雑貨を扱うmalulaniを運営する森下氏 ハワイ直輸入の雑貨が並ぶ。単価が高いため、クレジットカード決済は必須だという malulaniでお皿などの雑貨を購入したPayPal Here初体験のカップルは、「(サインのために)ボールペンを持たなくていいし、暗証番号を押しにレジに行かなくてもいい。ゲームっぽくて楽しいし、すごく楽。もっといろんなところに普及してほしい」と話していた。
ALOHA YOKOHAMAで初めてPayPal Hereを使った来場者。iPadで簡単にカード決済できることに驚いていた
ソフトバンクとPayPalが、初めてイベントをサポートしたALOHA YOKOHAMAでは、ソフトバンクがイベント会場の回線接続を増強することで、PayPal決済の命綱である通信の安定性を高め、PayPalがPayPal Hereに加え、新たな決済手法のチェックインを試験的に展開することで、店舗や来店者に“これからの決済サービスの形”を提案した。これは、“両社が協業する強み”を示すもので、こうした協業メリットは今後、さまざまな形で出てくるという。
こうした先進的な決済手法はこれまで、大規模店舗が導入を開始し、何年も経って価格がこなれてきてから中小規模の店舗が導入するのが常だった。しかし、クラウドと通信、スマートデバイスが進化した今は、中小店舗が先行して導入することが可能だ。
チェックインの先には、“行列知らず”の買い物スタイルを実現する「Order Ahead」がひかえている。中小店舗にとっては“今”が店舗改革の大きなチャンスといえそうだ。
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