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Fablabが目指すモノづくりの究極マシン「ファブリケータ」とは?

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 Fablab(ファブラボ)はデジタル工作機械を備えた実験工房である。コンピュータと工作機械をつなげることで、食品・服・楽器などあらゆるものを、必要な人が直接作ることにするための施設だ。「Fab」には、「Fabrication」(モノづくり)と「Fabulous」(楽しい・愉快な)の2つの単語が掛けられている。

 Fablabはマサチューセッツ工科大学(MIT)教授でビット・アンド・アトムズ・センター所長のガーシェンフェルド氏の講座「(ほぼ)何でも作る方法」から生まれ、現在は世界50カ国200カ所以上にある市民工房ネットワークだ。市民による自由なモノづくり活動(パーソナルファブリケーション)を振興している。互いにモノづくりプロジェクトの成果をやりとりしている。

 例えば、インドのFablabでは太陽光で調理するマシンが作られていたり、日本のFablabでは革職人がデジタル工作機械に職人芸を応用してスリッパを作ったりしている。そのスリッパの作り方はケニアのFablabにネットワークで共有されて現地でアレンジされ、オバマ大統領の祖母に手渡されるということもあったようだ。

 Fablabでは作り手と使い手が一体になったこと、作り方が共有されて各人が進化させるようにしていることで、これまでのモノづくりとは異なるイノベーションが起こりつつある。僕はその流れにひかれ、「Fablabから今何が起こっているのかが見たい」と思って、世界中から世界のFablab運営者(Fablabマスター)が集まる「第9回 世界Fablab代表者会議(Fab9)」訪れた。

Fab9とは何か

 「Fablab代表者会議」はこれまでインド、ペルーなど毎年違う国で開催されてきた。「Fab9」と呼ばれる今回が9回目で、日本での開催となった。2013年8月21〜27日の7日間、横浜市中区内のヨコハマ創造都市センター(YCC)、北仲BRICKなどの施設で開催された。世界39カ国から250人のFablabを運営するFablabマスターが集まった。

 文化的、経済的な状況の異なる各地のFablabでは、さまざまなモノづくりプロジェクトが展開されている。それらの情報が共有され、学び合い、さらに頻繁に行われるワークショップや会期中開放されているモノづくりスペースで、何かを作り続けるイベントがFab9だ。

 会期中横浜の一角は、同窓会のような強化合宿のような文化祭のような……、熱狂とエネルギーで満ちていた。

Fablabからのメッセージ、アイデアを世界に発信——国際シンポジウム

 Fab9の集大成として、2013年8月26日に国際シンポジウムが行われ、ムーブメント全体の紹介や、Fablabネットワークが起こしつつある成果が発表された。

Fablabが目指す「モノづくりの究極形態」とは

 Fablabの生みの親であるガーシェンフェルド氏は、まずFablabが目指す「技術」や「組織運営・モノづくりのやり方」について紹介した。

yk_fab9tks_001.jpgデジタル革命について語るニール・ガーシェンフェルド氏

 まず解説したのは、Fablabが取り組んでいるデジタルファブリケーションという「技術」についてだ。

 アナログで情報を伝えていた時代では、距離が離れると信号が減衰し、コピーすると劣化していた。デジタルの時代になって、情報の完全なコピーが可能になった。工作機械をデジタル(コンピュータ)で操作することにより、「モノづくりの方法」(情報)もコピーし、改変していくことが可能になった。これにより「もの」がインターネット上のデジタルなデータのように蓄積され、共有され、改変されるようになった。これがデジタルファブリケーションである。

 現在ではまだ、コンピュータを使って3Dプリンタ、ミシン、旋盤、食品加工機械などの工作機械を個別に動かして部品加工し、その後は部品を組み立てて完成品にしているが、デジタルファブリケーションの究極の目標は、食料品でも精密機械でも、1つのマシンから完成品が自動で出てくる「あらゆるものが作れるマシン」(ファブリケータ)だ。

 「最終的には分子や原子を直接制御することで、この世に存在するあらゆる“もの”を作れるようにすることを目指している」とガーシェンフェルド氏は語った。

 今の3Dプリンタや工作機械でできることから考えると、「あらゆるものが作れるマシン」(ファブリケータ)は、僕にはまるで「ドラえもんの道具」のように思える、技術的にすごく遠い目標だ。だが、Fablabの最初からその遠い目標を掲げることで、これから紹介する各地のFablabのアウトプットが、いわばSF的なスケールを生んでいることも事実である。

Fablabのモノづくり進化論

 ガーシェンフェルド氏のプレゼンは技術の話に続いて、Fablabの「組織運営・モノづくりのやり方」に続く。

 Fablabは多様性をもったさまざまな人が、自分の情報を共有し合うことで、最終的に大きな問題を解決することを志向している。情報がお互い共有されることで、アイデアは出し手を離れて成長していく。

 かつて大型コンピュータを限られた人(一部の専門家)だけで扱っていた時代と比べると、コンピュータが安価になり、それを使う人がどんどん増えている現在では「コンピュータを使ったアイデア」の創出はますます加速している。

 例えばインターネットは、コンピュータが「個人では持てないが、大学のいろいろな研究室には入る」ぐらいの段階で生まれた。手段が民主化され、使い手の数が増えれば、さまざまな人がアイデアを出し合うようになり、さらに面白いアイデアが共有され、その結果、さまざまな発明が生まれる。

 ちょうど今の工作機械のレベルは、インターネットが発明された当時のコンピュータに近い。そのうち、工作機械もパーソナルコンピュータのようなレベルになり、やがてスマートフォンのようなレベルになるだろう。

 Fablabはコンピュータが起こしたイノベーションと同じことを、モノづくりで起こすことを目指している。工作機械がどんどんパーソナルなものになり、個人個人が自分の作りたいもの、自分の解決したい問題に取り組んでいくことで、1つの考えだけで制御されがちな大きな組織では解決できない問題の答えを出していく。

“中心のないネットワーク”と多様性

 Fablabは“中心のないネットワーク”で、多くのFablabがそれぞれのテーマに取り組み、その知識がシェアされることで問題を解決している。現在は世界中で250カ所にFablabがあり、1年半ごとに倍増している状況だ。

 より多様性を増していくために、もっと多くのFablabを作っていく支援システムもさまざまな国で整備されつつある。アメリカなど幾つかの国では、国を挙げてFablabの設立を支援している。

 「そのうち、Fablabが“どこにでも存在”し、そこで本当に“何でも作れる”ようになるだろう。そうなると、どのように世界が変わるのか想像してみてほしい」と触れて、ガーシェンフェルド氏のプレゼンは終了した。

 この「世界各地にFablabを作り、多様性で問題を解決する」という話は、既に現実になりつつある。今回Fab9の実行委員長となっていた慶應義塾大学環境情報学部准教授の田中浩也氏も「WebからFabへ」という言葉で、Fabの多様性の爆発をインターネットになぞらえている。

 カンファレンスではその後、まさに「多様」な幾つものプロジェクトが発表された。

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