最近、京都に紅葉を見にいきました。その際、新幹線を使ったのですが、そのシルエットを大変興味深く眺めさせてもらいました。鉄男? いや違います。そうではなく、これまでの新幹線に生かされてきた数々の「ネイチャーテクノロジー」に見入ってしまったのです。
新幹線の特徴といえば、その先頭車両の長いノーズです。時速300キロを超えた新幹線500系から、こうした流線型になってます。500系はのぞみを引退し、こだまとして活躍中ですが、かつては「新幹線のコンコルド」とも呼ばれた人気デザインでした。
新幹線のテクノロジーはカワセミやフクロウが先生
500系の特徴的なノーズは水鳥であるカワセミのくちばしの形を模しています。嘘だと思ったらカワセミのくちばしを500系新幹線に並べてみてください。あら不思議、ラインがまったく同じじゃないですか!
実はこの形状、「トンネルドン」と呼ばれる高速列車ならではの問題を解決するために採用されています。新幹線がすごい勢いでトンネルに進入すると、圧縮された空気がトンネルの反対側に押し出されます。そのとき「ドーン!」という爆発音がするのだそうです。
トンネル近くの住民はたまったものではありません。これを解消するために、空中からものすごい勢いで水中に飛び込んで魚をとるカワセミのくちばしの形にヒントを得たというのです。
ノーズだけではありません。電車には、電線から電力を得るためのパンタグラフというひし形の装置が付いています。これも走行時のノイズの原因になります。私たちが日常的に乗っている電車のスピードではシビアな問題とはなりませんが、時速300キロを超える新幹線では、その空気の巻き込み音が大きなノイズになるのだそうです。
この問題を解消したのも自然の知恵でした。フクロウの風切羽にはノコギリ状のギザギザがついています。このたくさんのギザギザがフクロウが飛ぶときに小さな空気の巻き込みを作り出し、音を立てずに飛ぶことを実現しているのです。
新幹線は、500系からパンタグラフの形を変え、その表面にフクロウに学んだ小さな突起を無数に付けました。こうすることで風切音を減らすことに成功しています。ちなみにフクロウの羽根のギザギザの静音機能は、新幹線だけでなく扇風機や冷却ファンなどいろんなところで生かされています。
ネイチャーテクノロジーに学べ
このような自然に存在する技術を生かすことを「ネイチャーテクノロジー」とか「バイオニクス」といいます。こうした技術は、進化の過程で生まれた、より少ないエネルギーで無駄なく動くための機能であるため、エコで効率が良いのが特徴です。
私たちの身の回りには、自然に学んだ技術がたくさんあります。服についたゴボウの実をヒントにマジックテープが開発され、蓮の葉の撥水性に学んでレインコートが誕生しました。
身の回りだけではありません。コウモリが真っ暗な洞窟でぶつからずに飛ぶことができる仕組みに学んでレーダーが生まれ、砂漠で獲物の発する熱を感知しておいかけるガラガラヘビにヒントを得て「サイドワインダー(熱感知型追尾ミサイル)」が誕生しました。軍事技術も自然の世界を見本にしているのですね。
「自然界に学ぶ」というのは1つの応用アプローチです。自然界でなくても、自分とは異なる世界に学ぶことは多いはず。別の国や文化の違うエリアのやり方に学ぶ、別の業界に学ぶなど異なる世界にヒントはたくさん存在しています。近くばかりを見ていると近視眼になり、解決策が見いだせないことがあります。そんなときほど、いつもと違う世界に答えがあるのかもしれませんね。
著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)
知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。
リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。
近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。
連絡先: nagata@showcase-tv.com
Webサイト: www.showcase-tv.com
Twitterアカウント:@nagatameister
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