インターネットが主要な媒体に、かつインフラになった今、さまざま業界に急速な変化の波が押し寄せている。放送業界もその1つだ。ネットとの連携方法を探るコンテンツ面の変革や、4K、8Kといった画質のクオリティ向上に注目が集まりがちだが、取材データの送信や納品といった制作現場のワークフローにも変化が起こっている。
これはストレージの低価格化や、ネットワークの高速化によるところが大きい。一昔前ならば、業務用の磁気テープなどの物理メディアを使って映像を録画していたが、デジタル化が当たり前になった最近は、当然映像データもデジタルデータとして扱うのが一般的になった。データはHDDやカードリッジ型のリムーバブルメディアを使うことで、これまでの磁気テープより、省スペースかつ多くデータを記録できる。これは、保存や運搬コストも下げることにもつながり、フルHDや4Kといった大容量の映像データにも対応しやすい。
そんな、データ運搬時のセキュリティの確保や、撮影から放送までのスピードが重要視される昨今、データの“運搬方法”が次のフェーズに移ろうとしている。映像データを電子記録媒体に保存して運ぶのではなく、そのままインターネット経由でデータを転送するカメラやソリューションが多く登場している。2014年11月19日〜21日、幕張メッセで開催された映像と音響機器の展示会「Inter BEE(International Broadcast Equipment Exhibition)」でも、こうしたニーズに応えるさまざまな製品が展示されていた。
録画したデータをスマホのテザリング機能で本局に転送
パナソニックのブースには、メモリーカードにデータを保存するカメラレコーダー「AJ-PX270」が展示されていた。これはLAN端子を標準装備し、データのネットワーク転送に対応している(オプションで無線LANモジュールもある)。通信キャリアが販売するUSB型のLTEデータ通信端末も使え、HD動画のストリーム伝送にも対応するという。
録画した映像は、そのままテレビ局の本局のサーバに直接送ることができるほか、パナソニックが提供しているクラウドサーバを経由して、本局内のPCで受け取ることもできる。低ビットレートのプレビュー映像を送る機能にも近日中に対応するとしており、ファイルサイズが大きくなる高ビットレートの映像を送る前に、本局のスタッフがプレビュー映像から実際に使うものだけを選択し、指定したものだけ受け取るといったフローも可能になる。
「本局で受け取った動画は、そのまま編集作業に入れるので、速報性の高い取材映像を編集するときなどは有利です。ほぼ無編集に近い形で放映する『撮って出し』のような状況でも活躍するでしょう」(説明員)
ファイルベースの映像データのやりとりは一般的なものになりつつあるが、こうしたデータのネットワーク転送を使ったワークフローについては「導入され始めている段階」(説明員)とのことで、現在はTBSで試験的に導入しているという。「1人で駐在する取材など、現場から離れられない場合では、撮影した映像をスマートフォンのテザリング機能を使って、現場からすぐにデータを送るといった使い方をしている」(TBS)とのことだ。
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