Appleは長年、1度にリリースするiPhoneを1機種に限定していた。ユーザーが選べるのは音楽や写真を保存しておくストレージ(フラッシュメモリ)容量と、ボディカラー(そでもブラックかホワイト)くらいだった。
それが2013年には「iPhone 5s」と「iPhone 5c」という2種類がリリースされ、2014年は大画面化した「iPhone 6」とさらに大きなディスプレイの「iPhone 6 Plus」が登場した。その新型iPhoneが発売されてから1月半が経過し、ハードウェアに関する情報は語り尽くされた感もある。今回はハードウェアの情報だけでなく、短期間に緻密な製品を大量生産するApple方式が、“危険水域”に突入したことを示す幾つかのエピソードをお伝えしたい。
新規搭載の電子部品
【1】気圧センサー
iPhone 6/6 Plusが搭載した気圧センサーはモーションセンサーの1つで、Bosch Sensortecの製品である。同社は工具でお馴染み、ドイツBoschのグループ企業だ。
過去にiPhoneに搭載されたモーションセンサーは、画面の縦横表示を切り替えるための加速度センサー、方位を知る地磁気センサー、端末の回転角度を検知するジャイロであった。これらを使うことで平面上の動きを検出できたが、新たに気圧センサーが追加されたことで、高さ方向の動きを知ることが可能になり、モーションセンサーとしての完成度が高まった。
現在のところ気圧センサーを生かしたアプリとしては、文字通り気圧を測定するものが多い。将来の用途としては、他のモーションセンサーとの組み合わせにより、入り組んだ建物内での正確なナビゲーションが期待されている。
例えば東京駅には地上から地下数階までホームがあるが、これらを分かりやすく乗換案内してくれることになるだろう。ショッピングモールや博物館などでも同様で、エスカレータで上がると2階の地図に切り替わり、お目当ての店舗やオススメの絵画へ案内してくれるなど、日常生活が一段と便利になる。
【2】NFC
NFCの搭載も新型iPhoneのトピックといえよう。製造はオランダのNXPである。これとは別にNFCの通信用フロントエンドモジュールとしてAustria Microsystemsの製品も搭載されている。
iPhoneのNFCは「Apple Pay」という新たな決済方法を実現するものだ。NFCは無線通信の1つで、アンテナを通して大気中に電波を飛ばして通信する。しかしiPhone 6/6 Plusともに背面はアルミ合金製であるため、電波の通り道はないように思える。アンテナの位置についてはいくつか推測できるが、執筆時点で国内にApple Pay用のリーダー/ライターがないこともあり、断定は避けたい。またNFCのアンテナについては興味深い発見もあったので、後ほど触れたい。
またNFCはBluetoothなど、無線接続する周辺機器との面倒なペアリング(相互認識と接続)にも使われている。しかし現在のところiPhone 6/6 Plusでは、そうした利用は行われていないようだ。
【3】OIS
OISはOptical Image Stabilizerの略で、カメラレンズの光学式手ブレ補正機構だ。新しいiPhoneのうち、iPhone 6 Plusのみに装備されている。
光学式手ブレ補正はデジタルカメラやデジタルビデオカメラのレンズに装備されることが多い。手ブレした方向をジャイロで検出し、これとは逆の方向にレンズを動かしてブレを打ち消す機構だ。
カメラのフィルムにあたるCMOSイメージセンサーは800万画素(8MP)で、従来機種と比べて特に画素数が多いわけではない。CMOSはソニーがiPhone用に新設計したもので、従来より光を取り入れる個々の素子が大きくなり、暗い場所での撮影において有利になった。光学手ブレ補正とのコンビネーションで、より明るくブレのない写真撮影に威力を発揮する。このOIS機構は日本のアルプス電気とミツミ電機が担当したと推定される。
通常8MPカメラの価格はレンズを含め1000円弱とみられる。しかし今回は新設計のイメージセンサーに新たなレンズ群、そして光学手ブレ補正機構などが加わり、カメラの原価は2000円程度と予想している。
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