どうやらMicrosoftのクラウドにかける情熱は本物のようだ。2014年10月から11月にかけて、Office 365のコンシューマー版ユーザーも対象にした「OneDriveのストレージ容量無制限化」、「Microsoft OfficeとDropboxのクラウドストレージ統合」と、ユーザー体験の大きな向上が期待できる発表を矢継ぎ早に行った。
ここ数カ月の動向を振り返ってみても、SAPとのエンタープライズカスタマーを対象にした提携、クラウドCRM(顧客管理システム)を提供するSalesforce.comとの戦略的提携、Oracleとのエンタープライズクラウドに関する提携、IBMとのハイブリッドクラウドに関する提携など、クラウドに関する提携や重要なマイルストーン発表が相次いでいる。クラウド分野ではライバルとなるAmazon.comのAWS(Amazon Web Services)やGoogleも値下げを交えて対抗している状況だ。
また直近では、Microsoftのインターネット戦略の中核だった「.NET」のオープンソース化や、ほぼフル機能版にあたる開発ツール「Visual Studio Community」の無料提供など、かなり大胆な動きも見られる。ここ最近の動きを追いつつ、Microsoftの戦略を追いかけてみる。
ここ最近のMicrosoftはなぜ大型提携を連発しているのか?
Microsoft CEOにサティア・ナデラ氏が就任して以降、同社のコア戦略を説明するうえで必ず紹介されるスライドがある。「クラウドOS」とそれを利用するための「デバイスOS/ハードウェア」が存在し、この2つの組み合わせによって生み出されるユーザー体験を提供するのがMicrosoftの狙いだという。
過去の事業を見ると、同社は「WindowsというOSと、Officeという生産性ツール」が主力事業のソフトウェア企業だが、これをあくまでコア戦略を実現するためのピースとして扱い、少しずつ会社内部を変革しつつある状態と言える。
冒頭でも紹介したように、ここ最近のMicrosoftはIT大手各社らとの提携を次々と発表しているが、「ポジションの確立」と「ライバルらへの対抗」という2つの狙いがあると考えられる。Microsoftは現在クラウドへとその事業コアの舵を切っており、クラウドプラットフォームである「Microsoft Azure」が将来的には主要な収入源となるだろう。
ただし、Microsoft Azureそのものは従来のPCにおける「箱」の部分であり、ソフトウェアがなければ意味を成さない。箱としてのクラウド事業に一定の価値を与えるのが一連の提携発表だ。
SAP、Salesforce.com、Oracle、IBMはそれぞれエンタープライズ向けのミドルウェアやアプリケーション製品を持っており、これをMicrosoft Azure上で簡単に動かせる環境を用意したり、あるいはOfficeとの連携を可能にすることで、Microsoft製品の利便性が高まる。既存ユーザーの取り込みだけでなく、実際のエンタープライズの場面ではマルチベンダー環境というのが当たり前なので、こうした施策は重要だ。
またDropboxとの提携に見られるように、すでに汎用(はんよう)のクラウドストレージとしての地位を確立したサービスとMicrosoft製品の連携を進めることで、ユーザーにとっての利便性は大きく向上する。これはクラウドCRMとして広く利用されているSalesforce.comも同様で、Microsoftの生産性ツールとのクラウド経由での連携が進めば、使い勝手が高まる。
現在、Microsoftにとってのクラウド分野での(同社が想定する)ライバルは、Amazon.comのAWSとGoogleだと考えられる。AWSはクラウドOS事業では老舗で、Google Appsという生産性ツールも持つGoogleはMicrosoftの戦略と真正面から対立する。
少なくとも、これら2つを上回る利便性の高いサービスを作り上げ、早くから差別化を図ることが重要だが、業務提携のスピード感はナデラ氏が新CEOになってからの成果の1つであり、今後もまだ似たような発表が行われていくことだろう。
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