Amazon Web Services(AWS)に続き、Microsoft AzureやIBM SoftLayerなどが参入し、エンタープライズ領域におけるクラウド利用がいよいよ本格的に普及段階に入った。
すでに利用が進んでいるBtoC分野と比較して、セキュリティなどの課題から導入が進んでいなかった「エンタープライズクラウドが進み始めた理由」は、どこにあるのか。果たして、エンタープライズ分野におけるクラウド利用はきちんと普及するのか。
本稿では、クラウド主要ベンダーでエバンジェリストを務めるキーパーソン4名にお越しいただき、エンタープライズクラウド業界の現状分析から未来予想までを語りあっていただいた。前編では「エンタープライズクラウドの現状を分析」してもらおう。
<Part1 現在>パブリッククラウドの普及率は、せいぜい5%?
── クラウドサービスの現状について、どんな印象をお持ちか。
NTTコミュニケーションズ クラウド・エバンジェリストの林雅之氏(以下、林氏) 特に「IaaS」の分野で、価格競争が激化している。NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)も、これに追随すべくスピード感を持って判断しており、500円を切るサービスの提供を開始した。体力勝負の観があり、コモディティ化は必至だ。そのとき、どのように差別化できるかがサービスベンダーにとって大きな問題となるだろう。
iDCやISPの場合と同様に、クラウドベンダーの「淘汰」が始まると予測されているようだ。その中でどのように生き残っていくかが重要だ。
インターネットイニシアティブ 営業推進部副部長の神谷修氏(以下、神谷氏) IIJは、国内でも比較的早い段階でクラウドサービスを立ち上げた。4年以上前(2010年以前)になるが、当時と比べても競争が激しくなっている。
最近では、グローバルに展開しているエンタープライズユーザーのニーズが非常に高くなり、大手クラウドベンダーが大きなシェアを獲得してきている。当社も通信サービスを強みにエンタープライズユーザーへアプローチし、他社との差別化を図りたい。
当社のIaaSは、「洗練されたクラウドサービス」とは言いがたいかもしれない。しかし、既存のオンプレミスシステムと同じ感覚で運用できるサービスを目指している。そこが「使いやすい」と評価され、オンプレミスシステムからの移行や、ハイブリッド環境の構築の際に活用していただいている。もちろん不足している部分はあると思うが、当然、平行して強化していくつもりだ。
日本アイ・ビー・エム クラウド・エバンジェリストの北瀬公彦氏(以下、北瀬氏) IBMでは、スペックではなくて、パフォーマンスで価格競争をしたいと考えている。実際、当社の「SoftLayer」は“実際のパフォーマンスによって”市場競争力のある値付けを行っている。例えば「ゲーム開発用」や「データベース用」、ライトな「Webサーバ用」などと、用途に合わせて選べるようになっている。
当社はクラウド業界で後発ではあるが、この1年で大きく舵を切っている。SoftLayerや開発者向けPaaSのBlueMixを買収し、2014年6月に宣言した通り、SoftLayerのデータセンターを香港やロンドン、メルボルン、パリ、米国政府向けと建設し。2014年内には東京にも設立する予定だ。一方で、売却した事業も多く、クラウド・モバイル・アナリティクスといった集中すべき分野に投資する体制を整えた。
日本ヒューレット・パッカード クラウドチーフテクノロジスト 兼 エバンジェリストの真壁徹氏(以下、真壁氏) これから戦わなければならないクラウドサービスの先駆者として、AmazonやGoogleの名が挙げられる。しかしHPが流通業や広告業の巨大プレイヤーと同じことをして衝突しても意味はない。むしろこの1〜2年は顧客のIT変革のためにあるべき姿とは、という視点で準備を行ってきた。
当社の戦略は、他社と同様にハイブリッドとオープン化に尽きる。ただし、当社はプロダクトを扱っているところが異なる。米国でも発表されたばかりだが、当社のクラウドで使用している技術を購入できるようになる。つまり、NTT ComさんやIIJさんなど、クラウドサービスプロバイダーが商品を買ってくれるという強みがある。
また、後発であるハンデについても、メディアがあおるほどには本格的なクラウドマーケットは「まだ来ていない」と考えている。
クラウドの定義にもよるが、NIST(アメリカ国立標準技術研究所)が定義しているような“厳密なクラウドサービス”を活用しているユーザーは、せいぜい5%程度だろう。キャズム理論によれば、10%を超えたあたりから本格的な普及が始まるとされている。これにはあと1〜2年はかかると見ており、私たちはまったく焦っていない。グローバル展開も来年(2015年)に実施する予定だ。
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