人間の話し言葉を分析でき、データを蓄積することで自ら“学習”するIBMのスーパーコンピュータシステム「Watson」。日本でもこのWatsonの英知をビジネスに生かそうとする動きが広がっている。
2014年11月に三井住友銀行とみずほ銀行が相次いでWatsonをコールセンター業務に導入することを発表した。米国などではすでにWatsonを病院や金融業務などで活用している例はあるが、日本では珍しい試みといえる。特にみずほ銀行は音声データをテキスト化する音声認識技術を活用した新システムをIBMと協力して構築するなど、新たな接客サービスの姿を模索しているようだ。
みずほ銀行は、2013年に発表した中期経営計画をもとに、10年後の金融サービスを考える若手を中心としたプロジェクトチーム「次世代リテールPT」を発足。2014年4月には新ビジネス創出を目的とした「インキュベーション室」も設置している。「未来のサービスを考えようとする素地がある中で、人工知能を使った新たな取り組みができないか、ということでIBMとの話がまとまりました」(広報部)
新システムでは問い合わせをしてきた顧客とオペレーターの会話をWatsonが分析し、回答のヒントとなるキーワードをオペレーターの端末にリアルタイムで表示する。それに加えて、過去の問い合わせの内容などから、オペレーターが顧客に尋ねたり確認したりすべき事柄も表示されるという。オペレーターがいちいち聞くべき内容や回答例を検索しないで済むようにすることで、顧客を待たせることなく対応できるようにするのが狙いだ。
「問い合わせへの回答はスムーズに行えることがほとんどですが、お客様自身が起きている問題の全容や原因を把握できていない場合は、解決に時間がかかってしまうケースもあります。そういうときに、Watsonの分析で正しい回答にすばやく近づけることが期待できます。弊社コールセンターの対応時間の平均は約9〜10分ですが、Watsonを導入することで、7〜8分に短縮できると考えています」(広報部)
Watsonは言語をデータとして蓄積していくことで分析精度を自律的に高めていく学習型のスーパーコンピュータである。会話例などが蓄積されていけば、時間短縮だけでなく、コールセンターを利用した顧客の満足度も上がっていくだろう。
みずほ銀行は、年明けにも新システムを試験的に導入し、フィードバックなどを得ながら夏までには、数百台あるすべての端末に適用する予定だ。新システムの導入に伴う、オペレーターへの教育コストもほとんどかからないという。
今後はコールセンターだけではなく、営業店舗の入口で来店者の用事を聞いたり、窓口業務のサポートなどで活用する構想もあるが、これで従業員の需要がなくなるというわけではない。「サービスの中心はあくまで人間です。人間をサポートし、付加価値を上げるという役割でWatsonを活用できればと思っています。蓄積されたデータは業務の効率化だけでなく、新たな企画の立案や次の提案などにもつながるでしょう」(広報部)
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