月間数万件のテクニカルサポートを宮崎で
以前にも増して消費者の目が厳しくなっている今、配慮を欠いた行動をとるなど顧客対応のまずさによって、企業の悪態をソーシャルメディアに書き込まれた結果、取り返しのつかないほどの大炎上を引き起こすケースは珍しくない。
一般消費者向けに製品やサービスを提供する企業にとどまらずあらゆる企業において、顧客に対していかに手厚いサポートを施せるか、これが今後いっそう重要になるだろう。
そうした中で古くからカスタマーサービスに力を入れる1社が大手IT企業のデルだ。元々、日本国内ユーザーのサポートについては、中国・遼寧省大連市にあるカスタマーセンターがすべて請け負っていたが、2005年にデル宮崎カスタマーセンター(MCC)を宮崎県宮崎市に新設したことによって、現在は法人向け製品・サービスをMCCおよびデル日本法人本社のある神奈川県川崎市で、コンシューマー向けを大連でサポートしている。コンシューマーの一部に関してはMCCでも担当する。
MCCではこうしたテクニカルサポート業務のほか、電話やメールを使った内勤営業も行う。約530人のスタッフはすべて正社員で、テクニカルサポート部門が約350人、営業部門が約100人、そのほかが人事や総務といった管理部門に所属する。
全社員の約7割が九州出身者。宮崎という場所を選定する上で雇用促進に対して期待する地元自治体からの引き合いも強かったというが、デルとしても「人のために尽くすホスピタリティ溢れる人材や、ポテンシャルの高い人材が宮崎をはじめとする九州には多いという点を重視した」と、MCCでセンター長を務める金子知生氏は振り返る。3年前からはインターンシップもスタートした。
MCCは当初PC製品のサポートからスタートし、その後、ワークステーション、サーバ、ストレージと領域を広げている。現在のサポート件数は月間で数万件に上る。なお、デルは近年、企業買収に積極的であり、それによって新たに加わった製品やサービスについては主に川崎でサポートしている。
MCCのテクニカルサポート部門は大きくデバイス関連の「クライアント担当」とサーバやストレージなどの「エンタープライズ担当」から成り、さらにそれぞれが10以上のチームに分かれている。顧客からの問い合わせ内容は、PCの基本的な操作から企業ITシステム全体の管理まで多岐にわたり、電話、メール、チャット、それにソーシャルメディアなど複数のチャネルにまたがって寄せられるため、24時間365日体制で臨んでいる。
9割以上の顧客満足を目標に
カスタマーサポートはあくまでバックオフィス業務であり、補足的な位置付けだという声を耳にする。しかしながら、サポートは企業にとって不可欠な存在である顧客に尽くすものであるため、サポートは決してコストではないというのがデルの考えだ。「顧客を支援し、課題を解決することによって、結果的にデルのファンが増え、売り上げ増にもつながっていく。カスタマーサポートはプロフィットセンターなのである」と金子氏は強調する。
そのカスタマーサポートにおいて大切なのは「品質」である。質を高めるためにMCCでは、(1)正社員雇用、(2)成果主義、という方針を掲げている。正社員ということで顧客に対してよりロイヤリティの高いサポートができることに加えて、顧客からの正当な評価が社員の昇給にダイレクトにつながるのである。
「サポートを担当するエージェントは顧客から毎日フィードバックを受けていて、常に評価が可視化されている。リーダーは公募制であるため、結果的に顧客から高い評価を得た社員がなっている。そこには学歴も年齢も性別も関係ない公平性があるのだ」と、金子氏は説明する。
同社が顧客の満足度を測るために実施しているのが、イー・サーベイというアンケート調査である。サポートを受けた顧客が担当者の対応などについてフィードバックするもので、MCCでは11段階(0〜10点)からなる全体的な評価項目で7点以上を「顧客が満足した」としている。その割合を90%以上にすることがMCCにおけるカスタマーサポートの大きな目標だ。例えば、プロサポートの場合、イー・サーベイ結果が週に300〜400件と、日々数多くのデータが集まるため、担当者たちは常に緊張感を持ってサポート業務に当たっている。
MCC発の取り組みをグローバルに横展開
一方で課題感もある。この満足度が示すのはあくまでサポートを受けた顧客が対象。MCCに問い合わせしていない顧客に対してはまだ改善の余地があるという。
「彼らに向けていかにサポート情報を発信していくかが重要だ。TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを使ったアクティブサポートもその1つ」(金子氏)
また、日本人の顧客だからこその悩みもある。例えば、イー・サーベイでエージェントの対応の善し悪しを尋ねた場合、「どちらでもない」と曖昧な回答することも少なくないそうだ。これだと顧客が満足しているのか、不満に感じているのかの区別がつかない。そうするとサポートを受けたことで顧客の抱えていた問題が本当に解決したかどうかも分からない。
そうした状況を改善するため、MCCが独自で取り組んだのが、サポートを受けた顧客に対して、時間を開けてコールバックするサービスである。サポート後の状況などを改めてヒアリングすることで、より顧客の課題解決につながるだけでなく、信頼関係の構築にも結び付く。「この取り組みを始めたことで、顧客にとって“どちらでもない”というサポートが感動体験に変わっていった」と金子氏は胸を張る。
この施策は同社のグローバル全体でも高い評価を受け、世界で約100拠点あるカスタマーセンターの中でのベストプラックティスとしても紹介された。今では「宮崎発」のこのサービスが海外のさまざまな拠点に横展開されているのだ。
日本が誇る品質の高いカスタマーサービスを世界にーー。それがMCCに求められている大きな使命なのかもしれない。
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