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Apple WatchがiPhoneを呑み込む日

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普及の条件を備えつつあるApple Watch

 米Appleが9月9日(現地時間)、スマートフォンの新モデル「iPhone 6」とともに、腕時計型ウェアラブル端末「Apple Watch」を発表した。発表内容についてはすでに多くの報道がなされているので、ここでは割愛するが、Apple Watchのようなウェアラブル端末が今後さらに進化していけば、将来的にはiPhoneに代表されるスマートフォンの市場を呑み込むかもしれないと感じたので、今回はこの話題を取り上げたい。

 ただ、今回発表されたApple Watchは、あくまでiPhoneありきで、「iPhone 5」以降の機種と連動させて使うのが前提となっている。したがって、iPhoneの市場を侵食するのではなく、むしろ裾野を広げるものといえる。Appleの当面の狙いはまさにそこにあるのだろう。

 とはいえ、時計とともに、電話応答やメールのやりとり、地図や写真の表示、音楽再生、音声による検索や操作が行え、読み取り装置のある店舗ではかざすだけで支払いできたり、健康管理の機能も持たせるなど、iPhoneの“分身”ともいえる機能が備わっている。

米Appleが発表した「Apple Watch」米Appleが発表した「Apple Watch」

 さらに興味深いのは、用途の拡大に向けてエコシステムを広げようというAppleの意図が強く感じられることだ。例えば、独BMWとは自分の車をどこに止めたかを探せる機能、米スターウッド系列のホテルグループとは宿泊予約や予約した客室のロック開閉をApple Watchでできる機能、米ハネウェルとは部屋の温度や明るさをApple Watchから操作できる機能を、それぞれ協業して提供していくことを明らかにした。

 加えてエコシステム形成へ向けて注目されるのが、Apple Watchに対応したサービスを開発するためのソフトウェア「Watch Kit」を用意することだ。これにより、外部の企業もApple Watch用アプリケーションを開発できるようになる。

 筆者はかつて「ウェアラブルコンピュータは普及するか」(2013年10月7日掲載)と題した本コラムで、ベンダーの観点からウェアラブル端末を普及させるためには、ウェアラブルならではの「用途の開拓」、ビジネスとして成り立たせるための「ビジネスモデルの形成」、IT業界内だけでなく産業領域を越えた「エコシステムの構築」といった3つの課題があると述べた。

 それに照らし合わせると、Appleは既に、用途の開拓とエコシステムの構築には手を打ったように見える。もう1つのビジネスモデルの形成も、既に成功を収めているiPhoneとの組み合わせによって活路が開ける可能性は大いにありそうだ。つまり、Apple Watchは普及の条件を備えつつあるといえる。

Apple WatchがiPhoneを呑み込む理由

 では、なぜApple WatchがiPhoneさえも呑み込む日が来るかもしれないと感じたのか。それは「歴史は繰り返す」と思ったからだ。歴史とは、iPhoneに代表されるスマートフォンがこれまでさまざまな市場を呑み込んできた経緯のことだ。

 筆者はかつて「見えてきたスマートフォンの正体」(2012年11月26日掲載)と題した本コラムで、スマートフォンが従来型携帯電話にとどまらず、異分野の既存市場を次々と侵食しながら利用領域を広げつつあることを述べた。異分野の既存市場とは、デジタルカメラやビデオカメラをはじめ、携帯型の音楽プレーヤー、カーナビゲーション機器、ゲーム機、テレビなどである。

 およそ2年前の本コラムでは、そうした既存市場が軒並み縮小傾向にあることを捉えて、スマートフォンはそれらを片っ端から丸呑みする“ブラックホール”のような存在だと書いた。今回、改めて調べてみたところ、異分野で最も大きな影響を受けたとみられるデジタルカメラや携帯音楽プレーヤーの世界市場は、いずれもピーク時の2010年から今やほぼ半減してしまっている。

 そんなスマートフォンをApple Watchのようなウェアラブル端末が呑み込むなんて……そう思われる方が多いかもしれない。例えばApple Watchのような腕時計型だと、画面が小さくて見づらく操作しづらいだけでも、スマートフォンに取って代わることなどあり得ないとみるのは当然だ。

 だが、取って代わる可能性は、くしくもスマートフォンが既存市場を次々と侵食しながら利用領域を広げてきた結果、ここ数年の間に私たちの身近で起きた最も大きな変化が示唆している。それは、ライフスタイルの変化であり、ワークスタイルの変化だ。そう考えると、画面が小さくて見づらく操作しづらい腕時計型端末でもいろいろな用途に使えるようになれば、ライフスタイルやワークスタイルのほうが変わってくるかもしれない。技術的には、さまざまなクラウドサービスがウェアラブル端末、ひいてはその利用者を手厚くサポートするようになるだろう。

 最も想像できるのは、コミュニケーションのあり方が変わりそうなことだ。無駄な会話をすることなく、要点だけを簡潔にやりとりするようになる。会話の手段としてスタンプのような動画絵文字もさらに進化するだろう。こうした点をうまく生かせば、例えば業務利用にはスマートフォンより腕時計型端末のほうが取り入れやすいかもしれない。

 Apple Watchが発売されるのは来年初め。日本での発売日や価格は未定だが、来年からウェアラブル端末の利用がいよいよ本格的に模索されるだろう。数年経てば、ライフスタイルやワークスタイルが大きく変わっているかもしれない。ただ、人間社会にとってその変化が果たしてどういう影響をもたらすのか。光と影の両面でよく議論していく必要もありそうだ。

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