最近のWebアプリケーションは機能が充実している。Google Appsのスプレッドシートやドキュメントだけではなく画像編集やマインドマップのようなものまでそろっている。Webブラウザだけで操作するChrome OS搭載のChromebookで、WordやPowerPointと完全互換を保ちつつ編集できることまで分かったのだが、それだけではまだ不足があった。
前回の解決内容はこちら。→Google PCだと「ワード」や「エクセル」が使えない!?
マクロやフォームを組み込んだExcelファイルが使えない!
——Microsoftが提供するOffice Onlineを使えば、これまで作ってきたWordやPowerPoint文書のレイアウトを崩すことなく編集できますから、対外的にMicrosoft Officeをどうしても使わなくちゃいけない場合でも大丈夫ですよね。それ以外にどんな問題があるんでしょうか。
イシノ: Office Onlineでは「マクロ」が使えないのですよ。
——えー? でも、マクロを組む人って、ごく少数ですよね? そういう人たちのPCだけWindowsにしておいて、その他大勢はChromebookで良くないですか?
イシノ: 確かに自分でマクロを組んで配布するような職種の人は少ないですね。でも、受け取った側はどうでしょうか。マクロ入りのExcelや、アンケートのためのフォーム入りブックがメールに添付されてきた場合、Googleのスプレッドシートや「Excel Online」アプリではどうしようもありません。
——ああ……確かにOne Drive上のOffice Onlineアプリでは対応しきれないですよね……。ぐぬぬ……。
イシノ: 実はそんなときのための切り札として、「Windows環境の仮想化」という手段があるんです。それを使えば、完全なWindows環境をChromebook上で実現でき、マクロ利用も可能になるんです。
——えっ、Windows環境の仮想化ってどういうことでしょう?
仮想化技術によってWindows環境を利用
イシノ: ワタナベさん、仮想マシンとか仮想環境っていう言葉、聞いたことありませんか?
——ありますよ。私物のMacBookに仮想化ソフトをインストールして、そこでWindowsを動かしていました。
イシノ: うん、それをもっと大規模に実現しようということなんですよね。Windows環境を社内サーバーに入れて、ユーザーがクライアントマシンを使ってリモートアクセスし……。
——うわぁ、ちょっと待ってください、イシノさん。ちんぷんかんぷんなのでわたしにも分かるように教えていただけませんか。
イシノ: アクセスできるファイルは何もPC本体に保存してあるものだけではないですよね。通常業務でクラウドストレージに保存したファイルにもアクセスしていると思います。そのファイルがWindowsPCそのものだ、と考えてください。PCといっても実際に物理マシンがあるわけではない。なので「仮想」マシンとか「仮想」デスクトップと呼んでいるわけです。そしてそれら仮想デスクトップを保存しているサーバーを「ホスト」と呼びます。
——何かおもてなししてもらえそうですよね。
イシノ: (苦笑)。そのホストに自分の手元のマシン——クライアントを使ってアクセスし、デスクトップイメージを呼び出すのです。
——「イメージ」ですか?
イシノ: ……多分、ワタナベさんが考えているイメージとは違うかも。まずOSやシステムの設定を含んだドライブをまるごと正確にサーバー内にコピーします。そしてクライアントからそれに対して操作の命令を出し、サーバーは対応するデスクトップの「画像」をクライアントマシンに送ります。この技術を「画像転送」というのですが、Windows PCのデスクトップ画面が手元のマシンの操作に応じて表示されるので、サーバー内の仮想PCでもまるで本当のPCのように扱えるんです。
いってみれば、リモコンで離れたところにあるものを動かすようなものですね。操縦者は手元にある機器をちょっと操作するだけで、命令を受信した機械が空を飛んだり地面を縦横無尽に走る、そんな感じを想像してください。今話していることに当てはめていえば、手元のリモコンがChromebookで、操作される側がサーバー上の仮想デスクトップということになります。
——分かりやすいですね!
イシノ: ここで大切なのは、操作するマシンと処理するマシンが別々だ、ということですね。
——んー、また分からなくなってきました。
イシノ: この間、PCをリプレイスしましたよね。それまでどんな不満がありましたか?
——とにかく動作が遅くてイライラしました。Webサイト1つ開くのに1分以上かかることもあったりして。
イシノ: それってマシンスペックのせいですよね。
——そうだと思います。お隣さんのマシンは、わたしのマシンの倍量のメモリを積んでいるからかサクサク動いていましたし。
イシノ: つまり、処理を実行するマシンの性能は大切だということですよね。仮想デスクトップがサーバーに保存されていて、それをリモートで動かすとき、まるで手元のChromebookで処理を実行しているような感覚に襲われますが、実際に処理しているのは保存しているサーバーなんです。Chromebookは「これをしろ、あれをしろ」という命令を出しているだけなので、それほどのスペックは求められません。処理しているサーバーの性能さえ良ければ、ユーザーはストレスなく仮想化されたデスクトップを使える、というわけです。あ、もちろん画面に表示させるわけですからChromebookにもそれなりの性能は求められますが。
——なるほど。あ、もしかして、仮想デスクトップを使えばWordやExcelだけとかケチなことを言わずに、Windows上でしか動かない会計ソフトや3DCADソフトも使えるのではないですか?
イシノ: もちろん使えますよ。これまでWindowsで作ってきたファイルを含め、資産を無駄にしないで済みますね。
OSとアプリの集約で管理が楽に
——ところで、質問があります! 実際のPCであれば、OSのライセンスキー1つでも複数ユーザーがログインして共有できますが、仮想マシンでも同じことができるんでしょうか。
イシノ: それはOSのライセンスによりますから一概にはいえません。でも、1つのデスクトップイメージを複数ユーザーで共有することは可能です。そしてその方がサーバーへの負荷も少ないので、特別な業務に就いているため個人の環境を構築しなければいけないようなユーザー以外であれば、共有デスクトップを使ってほしいところですよね。
——そうすれば、コスト的にも負担が減りますか?
イシノ: そうですね。
——仮想デスクトップでもWindowsショートカットキーやUSBデバイスを普通に使えるのでしょうか。
イシノ: Chromebookだとどうなんでしょうか……。
Chromebookに特化した「Receiver for Chrome」
仮想化ソリューションの分野で老舗のシトリックスによれば、これまでもインストール不要でWebブラウザだけでリモート操作できる「Receiver for HTML5」を用意していたが、この秋からChromebookに特化した「Receiver for Chrome」が登場するとのこと。
→参考記事:GoogleのChromebook、「Citrix Receiver for Chrome」でサーバのアプリを利用可能に
このアプリをインストールすれば、印刷、USBデバイス(TWAIN機器)からのインプット、キーボードショートカットの利用などだけではなく、Google ドライブ上に保存したファイルを開く際、サーバーOS上で実行しているアプリケーションで開く、といったことも可能になるとのこと。さらに、社内/社外から接続する際の切り替え設定なども保存でき、保存した設定ファイルを配布して、ほかのユーザーの設定の手間を減らせるという。
イシノ: なるほどねぇ。複数台のWindows PCを導入するのに比べれば、OS管理やアプリインストールなどメンテナンスがサーバーに集約されるから楽になるし、クライアント端末になるChromebookの管理も手間いらず。サーバー強化やシステムの導入のためにある程度の初期投資は必要になるけど、Chromebook自体が安いから長期的に見ればメリットは大きそうですね。
——何より、イシノさんのお仕事が楽になりそうですよね!
イシノ: それ、重要ですよ?(笑)
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