日本の「CEATEC JAPAN」がコンシューマー家電向け展示会としての役割から、少しずつ立ち位置を変えてきているのに対して、ドイツ・ベルリンで毎年行われる「IFA」は、むしろ家電への特化を強めてきた。その背景にはサムスン、LGといった韓国のライバルが世界市場での存在感を高め、それと交代するかのように日本メーカーの出展規模が小さくなってきた背景がある。
中東にテレビ生産拠点を持ち、欧州でのテレビ販売にも力を入れている東芝を除けば、グローバルで力のある日本のAV家電メーカーは、ソニーとパナソニックに絞られてきた。IFAの2日目に東芝の記者説明会があるが、初日に限れば日本メーカーのプレスカンファレンスはこの2社のみだ。初日発表会の中から、筆者が注目した製品や技術についてダイジェストでお伝えすることにしたい。
”テクニクス”復活に見るパナソニックの変化
昨年の「IFA 2013」、パナソニックの発表会は実に地味なものだった。ブースの面積を拡張し、過去最大になったものの、増えたのはシロモノ家電。欧州、とりわけドイツではデザイン性の高いカスタムインストール用のキッチン家電などは重要なので、その意図は充分に伝わってくるのだが、いわゆる”クロモノ”に関しては目玉がなく、それまに蓄積していた映像・音響の要素技術展示会のようでもあった。
このまま黒子に徹するつもりでB2B方向に行くのかと思いきや、今年になってからは再び、さまざまな挑戦を始めている。新経営陣による経営の足元が固まってきた中で、やっと新たな挑戦を行える体制になってきたのだろう。4K化をきっかけにした高画質液晶テレビの開発、それに正式に発表となった高級オーディオ事業への再参入といったことに繋がっているのだろうか。
まずはテクニクス再参入について筆を進めたい。
テクニクスというブランドは日本でも40代以上ならば、その名が頭の中に刻み込まれているだろうが、特に欧州でのブランド力はいまだに高い。もちろん、高級オーディオというニッチマーケットがパナソニック全体を支える事業になるわけではない。しかし、ハイレゾオーディオをインターネット配信で流通させる方向性が見えてきたオーディオ市場は、業界の中で1つの節目を迎えている。
パナソニックアプライアンス社でエンタテイメント製品の事業を統括している楠見雄規氏は、「われわれは過去にオーディオ製品も生みだし、現在も製品を提供している。しかし、生で体験するコンサートなど音楽による感動を伝えられる製品を提供できているかといえば、そこはできていない。オーディオは単独製品だけでなく、さまざまな商品に活かせる分野だ。そうした分野では、付加価値の源泉となる価値に対し、きちんと対応していかなければならない」と話した。
この節目の時期に、トップエンドの製品を手がけることによって独自の技術を磨き、ブランドとして確立させたいという意図が見える。製品の紹介、試聴結果などに関しては別途お伝えしたいと思っているが、価格ばかりに目を奪われると(上位のリファレンスモデルはシステムトータルで約500万円程度)本質を見失う。
パナソニックは高級オーディオ事業の部門を失い、テクニクスというブランドも前経営者の時代に廃止された。興味深いのはオーディオ技術がパナソニックから完全に失われたかのように思われた中で、実は脈々とオーディオ技術、ノウハウを蓄積してきたことだ。
2Way同軸ユニットをはじめ、スピーカーに使われているドライバーユニットはすべて自社で開発/生産される。デジタルアンプ技術も他社との協業を進めながらも、社内で独自技術を培ってきた。Blu-ray Discレコーダーという限られた分野ではあるが高品位再生のノウハウを積み重ねてきた経験もある。
スペックを見れば、トランジスタ素子の素材にGaN(ガリウムナイトライド)を採用。シリコンに比べオン時の抵抗が半分で、スイッチングが速く、スイッチング時の過渡特性も直線性が高いという。これによりハイエンドモデルでは一般的なPWMアンプのスイッチング周波数である384kHzから4倍に引き上げた1.5MHzのスイッチング速度を実現(下位モデルは2倍速の768kHz動作)するなどの見どころもある。しかし、そこがテクニクスの本質ではない。
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