8月1日にブランド名を「Y!mobile」に変更し、いよいよ本格的な新体制へと移行したワイモバイル。新会社に至る経緯やヤフーとの連携、ネットワーク・端末・サービスに関する今後の取り組みなどについて、同社の取締役兼COOである寺尾洋幸氏に話を聞いた。
ヤフーとの出会いが現在の方向性を生み出す
ソフトバンク傘下となったイー・アクセスとウィルコムが合併し、7月に誕生したワイモバイル。合併の過程でヤフーによる買収が持ち上がり、その後撤回されるなどの混乱はあったが、最終的にはヤフーとワイモバイルが業務提携を結び協力していくこととなった。そして8月1日、ワイモバイルはようやく新ブランド「Y!mobile」を打ち出し、新会社としての本格的なスタートを切った。
レイトマジョリティをターゲットとし、分かりやすい料金とYahoo! JAPANとの連携によるサービス面での充実を武器として市場開拓を進めるワイモバイル。だがそうした方針に行き着いたのにも、やはりヤフーの買収から業務提携に至る過程が大きく影響していると、寺尾氏は話す。
元々イー・アクセス、ウィルコム共にネットワークインフラを主体に手掛けてきた事業者。2つの企業が合併した際の強みと言えば「安売りをするアイデアしか思いつかなかった」(寺尾氏)そうで、2社のシナジーで何ができるのか、方向性に悩んでいたという。
そこにある日、ヤフーの代表取締役社長である宮坂学氏から、ワイモバイルを買収したいという話がでてきた。結果的に買収の話自体は消滅して協業という形になるのだが、その過程でワイモバイルとヤフー、双方のメンバーが新会社のビジョンをどうするか、泊まり込みの合宿しての議論を持った。
そうした議論の中で、「僕らのようにITを活用している人達が実現できている便利さを、体験できていない、届いていない人達がたくさん出てきている。そこを何とか解決していきたい」(寺尾氏)という両社の思いが一致したことから、「ネットの生み出す楽しさ、便利さをみんなの手元に届ける」というY!mobileのビジョンと方向性がまとめられた。
コンテンツを持つヤフーと、ネットワークや端末、そして店舗を持つワイモバイル。両者が手を組むことで、レイトマジョリティを対象としたY!mobileのサービスが実現したい——。しかし、提携関係にあるとはいえ別会社であることに変わりはない。ヤフー側はどのような形で連携を持ち、サービスに関わっているのだろうか。この点について寺尾氏は、「村上さん(ワイモバイル取締役で、ヤフー執行役員兼CMOでもある村上臣氏)が入っており、彼がハブになってヤフーのメンバーとアイデアを出し合い、サービスを作り上げている」と答えている。
ヤフーとワイモバイル、双方にとってメリットとなる仕組みを
レイトマジョリティをターゲットとする上で、重要なポイントとなるのが料金だ。Y!mobileはスマートフォンの料金を、月間のパケット使用量に応じた3つの「スマホプラン」として用意している。最も安い「スマホプランS」は、月額2980円(スマホプラン割引適用時、税別)で1Gバイトのデータ通信と、1回当たり10分の音声通話を月300回まで無料でできる。
このような料金設定にした理由として、寺尾氏は「3000円を意識した」と話す。Y!mobileがターゲットとするフィーチャーフォンユーザーに向けて調査したところ、スマートフォンの適正価格は4000円前後と認識している人が多かった一方で、既にスマートフォンを持っているユーザーからは、やはり料金に対する不満が多く聞かれたという。そこで同社では、スマートフォンをまだ手にしていないが、興味のある人に訴求しやすい、月額3000円程度の料金から利用できることを強く意識したとのことだ。
もっとも、月額3000円を切る「スマホプランS」の場合、データ通信容量は1Gバイトと少ないし、通話については10分の国内通話が月300回までが含まれているが、注目の完全定額制はオプションでの提供となる。「月額3000円を切るには、ちょっとずつ我慢してもらう部分は作らざるを得ない」(寺尾氏)とする一方で、「子供世代のスマートフォン普及率はものすごいが、一方で子供を持つ親御さんの普及率は伸びない。一番最初に小遣いを減らされるのはお父さん世代なので、そうした意味でもこの価格はいい頃合いなのではないか」と、寺尾氏は評価している。
そしてもう1つのポイントは、Yahoo! JAPANとの連携サービス。こちらは主に、「Y!mobileメール」「Yahoo!ボックス」などの無料で利用できるサービスと、月額500円を支払うことでYahoo! JAPANのプレミアムサービスが受けられ、データ通信の制限を解除できる「Enjoyパック」、そしてY!mobileのスマートフォンからYahoo! JAPANのサービスを利用するとマイルが貯まり、貯まったマイルに応じて毎月のデータ通信の容量をプラスできる「パケットマイレージ」が主体となっている。
こうしたサービスの提供に至ったのは、「ヤフーは広告と検索で売上を上げているし、我々は毎月の通信料で収入を得ている。双方にとっていい仕掛けはないかと考えた結果」と、寺尾氏は話す。それを象徴しているのがパケットマイレージで、毎日Yahoo! JAPANにアクセスする目的を与えることでデータ通信の利用が増えるのに加え、Yahoo! JAPANに頻繁に足を運ぶことで、ヤフオクをはじめとしたYahoo! JAPAN上のさまざまなサービスを知ってもらい、ヤフーの収益拡大にもつなげられるとしている。
だが一方でパケットマイレージはその仕組み上、最も安いスマホプランSの場合、5日間連続でログインすると引くことができる「パケくじ」に当選しない限りマイレージの恩恵にあずかることができないため、積極的に利用するかどうか疑問を抱く部分もある。この点について寺尾氏は、「サービスを広げる上でも、毎日(Yahoo! JAPANを)使って楽しめるものを目指した。パケくじを入れたのもそのため」と話しており、スマホプランSでは獲得条件をやや厳しく設定しながら、アクセスすることでメリットを与える仕組みにしたと説明する。ちなみにより上位のスマホプランM/Lでは、追加容量を手に入れやすい仕組みになっている。
また寺尾氏は、「今後Yahoo! JAPANの色々なコンテンツが、マイレージとつながる可能性がある」と話し、Yahoo! JAPANの他のコンテンツ利用でマイレージを得られる手段も検討していることを明かした。寺尾氏は「Yahoo! JAPANのサービスの1つ1つは細い木だが、それが森となって集まっているところに強みがある。その強みをうまく生かす仕掛けを作っていきたい」とも話しており、今後はより一層、Yahoo! JAPANのコンテンツと連動した施策を充実させたいとしている。
イー・アクセスとウィルコムが持っていたインフラへの取り組みは?
サービス面に注目が集まる一方で、これまでイー・アクセスとウィルコムが注力してきたネットワークインフラ面については、現状どのようになっているのだろうか。
まずPHSについてだが、通話定額が携帯電話回線で実現できたことから、寺尾氏は「最終的には利用目的を明確に分けて活用する形になる」と話す。寺尾氏はウィルコムで商品企画なども担当していたが、AndroidはPHSのネットワークに適した設計になっていないことから、やはり“合わない”とのこと。「PHSフリークとしては(スマートフォンも)やりたいが、自己満足で終わってしまいそう」(寺尾氏)とのことで、やはりフィーチャーフォン型端末での利用が主体となるようだ。
一方のイー・アクセスが所有していた、3G/LTE用の1.7GHz帯に関しては、継続して整備を進め、ソフトバンクモバイルが持つ帯域と連携してスマートフォンに使用していくとした。ただし整備エリアに関しては、「きっちりエリアを取らないといけない帯域なので今後も範囲は広げてはいくが、トラフィックが大きいことから、厚みを増す対策を優先している」(寺尾氏)と説明。ソフトバンクモバイルの帯域が利用できるようになったこともあってか、トラフィック対処を重視して整備を進める方針のようだ。
またLTE-Advanced、そして今年割り当てが注目される3.5GHz帯に関しては、寺尾氏は「社内でも3.5GHz帯と1.7GHz帯とのキャリアアグリゲーションの実証実験を実施している」と、取り組み自体は進めていることを明かす。だが周波数帯の割り当てに関しては、資本関係のあるグループ間で恒常的に周波数を融通し合う、グループ性の問題が総務省で議論されている。それゆえワイモバイルとしては「3.5GHz帯の申請については現時点で決まっていることはない」(寺尾氏)とのことだ。
それよりむしろ同社にとっては、今後予定されている1.7GHz帯の追加割り当ての方が、重要性が高いという。寺尾氏もこの帯域に関しては「割り当てがあればすぐにでも利用できる体制が整っている。欲しくて欲しくて仕方がない」と話しており、免許割り当てを待ち望んでいる様子をうかがうことができる。
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