東京電力福島第一原子力発電所の事故を機に、災害対応ロボットの開発が加速している。千葉工業大学(以下、千葉工大)が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクトの成果を活用し、新たに開発した「櫻壱號(さくらいちごう)」もその1つだ。
千葉工大から技術供与を受けた日南が櫻壱號の生産販売を行うことで合意し、既に1台が日本原子力発電の原子力緊急事態支援センター(福井県敦賀市)に納入済みである。
本記事では、千葉工大、日南、NEDOが2014年4月に行った共同記者会見の内容から、櫻壱號の実用機としての可能性と、今後の事業展開について紹介する。
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災害ロボット「Quince」のDNAを受け継ぐ実用機
福島第一原子力発電所の事故で、国産ロボットとして初めて現場に投入されたのは、千葉工大が開発した災害対応ロボット「Quince」だ。人間の立ち入りが難しい高放射線量下での状況把握に貢献した。
Quinceの特徴は、急な階段も上がれる高い走破性能である。がれきが散乱する中、建屋の5階までたどり着くなど、期待通りの活躍を見せた。
しかしこの事故で浮き彫りになったのは、災害対応ロボットがまだ研究段階で、実用レベルには達していなかったということだった。福島第一原子力発電所では千葉工大がロボットの開発から作業員へのトレーニングまでを対応したが、本来それは大学の業務ではない。非常時でやむを得なかったとはいえ、サポートなどは体制が整った企業が担うべき役割だったのだ。
その反省を踏まえNEDOでは、災害対応ロボットの実用化を目指し、2011〜2012年度に「災害対応無人化システム研究開発プロジェクト」を実施した。このプロジェクトの詳細は以前公開した記事「オールジャパンで挑む災害対策ロボット開発、実用化への道は?」でも触れているので参照してほしい。
同プロジェクトで千葉工大が開発したのが、狭隘(あい)空間先行調査型移動ロボット「Sakura」である。冒頭で紹介した新型の災害対応ロボット櫻壱號は、このSakuraをベースに千葉工大が新規開発したロボットだ。
Sakuraと櫻で名称が少し紛らわしいが、千葉工大の櫻シリーズは、産業化を強く意識したロボットである。千葉工大がこれまで手掛けてきたQuinceやSakuraなどの従来シリーズは開発を終了し、信頼性や耐久性を重視した新シリーズの開発に注力するという。今回、櫻壱號の事業化では日南がパートナーとして選ばれたが、先行して2013年に発表した「櫻弐號(さくらにごう)」では、三菱重工業(MHI)に対して技術提供を行っている。
日南と千葉工大は共同で櫻壱號を原発向けにカスタマイズし、「原発対応版櫻壱號」を開発した。原発対応版櫻壱號は競争入札の結果、原子力緊急事態支援センターへの導入が決定。同センターには、既に米iRobotの「PackBot」と「Warrior」が導入されていたが、国産ロボットの採用は櫻壱號が初となる。
電気事業連合会は原発の事故対応を支援する組織として、2015年度に「原子力緊急事態支援組織」を設置することを決定。それまでの間、機材の整備や作業員へのトレーニングなどを行うため、2013年1月、日本原子力発電内に24時間対応可能な原子力緊急事態支援センターが開設された。
納入された原発対応版櫻壱號は、平常時には操作トレーニングなどに使われ、非常時には各地の事故現場に投入されることになる。本来であれば、福島第一原子力発電所の事故以前から整備しておくべき組織ではあったが、このような運用体制が整いつつあるというのは、災害対応ロボットの実用化にとって大きな前進だと言えるだろう。
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