ドイツの研究者が、LED電球の明るさを2倍に改善する方法を見つけ出した。光を放つ「LEDチップ」ではなく、電球内部でLEDチップに電力を供給している「電源回路」に手を入れた結果だ。
ドイツFraunhofer-Institut für Angewandte Festkörperphysik(Fraunhofer IAF、フラウンホーファー応用固体物理学研究所)は、2014年3月、LED電球の電源部分を改良することで、電球の明るさを約2倍に高めたと発表した*1)。明るさ(光束)が1000lm(ルーメン)の市販製品を改良した結果、2090lmまで性能を高めることができたという。2014年4月7日から同4月11日までドイツで開催されるHANNOVER MESSE 2014に改良品を出展する予定だ。
図1に改良後のLED電球を示す。左から光を通すドーム状のカバー、放熱部、透明な円筒に収められた改良部分、ソケットだ。改良部分にある黄色い部品が性能向上のカギである。なお、図1は説明のために改良部分を表に出したものであり、実際には本来のLED電球の寸法より大きくなることはない。
*1) ドイツでLED照明の研究が進む背景には、RoHS指令(有害物質使用制限指令)により、2012年7月から蛍光灯など水銀を含む製品の完全撤廃が始まっていることがある。Fraunhofer IAFは、2015年に従来の照明とLED照明の比率が逆転すると予想している。2020年には市場の88〜90%を占めるという予測だ。なお、日本政府は2013年10月、「水銀に関する水俣条約」に署名しており、水銀を5mg以上含む照明の製造・販売・流通・輸出を禁止することになった。
窒化ガリウムが改善のカギ
LED電球は、家屋などに備え付けられたソケットに差し込んで使う。ソケットには交流電流が通じている。ところが、LEDチップは直流で光を放つ。そこで、ほとんどのLED電球の内部には、交流電流を直流電流に変換する電源回路が組み込まれている。シリコン半導体を利用した電源回路だ*2)。
このシリコン半導体を、窒化ガリウム(GaN)半導体に変えた。さきほどの黄色い部品だ。窒素(N)は大気の主成分であり、ガリウム(Ga)は手のひらの上に乗せると体温で溶けてしまう金属だ。この全く異なる2つの物質を化合させると、理想的な半導体となる。
理想的とは交流/直流変換時のロスが少ないということ。従来のシリコン半導体よりも電力変換効率を1〜4ポイント改善でき、86%とした。これによりLED電球から発生する無駄な熱も減る。
*2) Fraunhofer IAFによれば、LEDチップに供給する直流電流は、安定した高品質なものでなければならず、電源回路の設計にはノウハウが必要だとしている。電源回路の質が悪いと、明るさに問題が生じるばかりか、LEDチップの寿命が短くなってしまう。
より小さく、より安く
GaNにはもう1つ理想的な性質がある。熱と比較的大きな電流、電圧に強いのだ。Fraunhofer IAFでグループマネジャーを務めるMichael Kunzer博士によればこうだ。「熱は従来のLED電球の明るさと寿命に大きな影響を与えている」。従って、従来のLED電球をより小型化する際にもGaNが役立つ。
LED電球を小型化する際、GaNの3つ目の性質が効果的に働く。電源回路に含まれる半導体は、「スイッチ」として機能している。GaNを採用するとスイッチの入り切りをシリコンより10倍も高速化できるのだ。高速スイッチングが可能になると、電気回路の原理により、電源回路に含まれている半導体以外の部品、コイルとコンデンサーを小さくできるのだ。「LED電球がより輝くように設計することもできれば、明るさ従来と同じに抑えて電球の寸法を小さくすることもできる」(Kunzer氏)。小さな部品、すなわち小容量の部品を使うとより部品コストが下がる。つまり、Fraunhofer IAFの技術は、LED電球の販売価格を下げる方向にも役立つ
なお、現在市販されているLED電球は、LEDチップの材料にGaNを採用している。今回の開発品はいわば「オールGaN LED電球」とでも呼ぶことができるかもしれない。
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