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作家と活字とエージェント――作家・椎名誠が電子書籍で「完全版」提供のワケ

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ジョン万作の逃亡ジョン万作の逃亡

 35年近くにわたって文筆活動を続ける作家・椎名誠氏。

 今年1月、椎名さんの作品が電子書籍として刊行されることがクリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)から発表された。表紙イラストを椎名氏自身が担当し、巻末には作品の振り返りとなる長いあとがきを加筆した「完全版」だ。

 椎名小説の第1号となった『ジョン万作の逃亡』、吉川英治文学新人賞受賞作の『犬の系譜』、1998年に映画化された『中国の鳥人』など5作品を皮切りに著作を電子化するこの取り組み。パートナーとしてタッグを組むC&R社は、作家エージェント事業を展開している。

 「世の中の人は僕のことを電子書籍とは最も遠い作家だと思っていたはず」とユーモアを交えて語る椎名氏。電子書籍刊行の背景や作家視点から見た電子書籍の今について聞いた。

代えがたい「埋もれかけた作品が復活する喜び」

—— 今回著作を「椎名誠 旅する文学館」シリーズとして電子書籍で刊行することになったきっかけとは何でしょうか。

椎名誠(以下敬称略) 最近まで、僕と電子書籍はまったく関係のないものなんだろうと思っていました。

 そもそものきっかけは2011年に遡ります。僕の仲間たちが「旅する文学館」というWebサイトを開設してくれたんです。それまでは紙と活字の世界で仕事を続けてきましたが、インターネット上の窓口を設けたことで、C&R社をはじめ多方面からサイト経由でお話をいただくようになったんです。

—— 複数社から打診があった中で、C&R社と連携することにした決め手は?

椎名 いただくお話は一旦スタッフが判断し、そのときどきで適切なものを僕に提示してくれます。信頼していますので、スタッフらが選んだ仕事なら確かなものだろうとだいたいいつも考えています。C&R社については、スタッフらに詳しく内容を聞いた上で、GOサインを出しました。

 でも実は、今回の取り組みがどのようなシステムなのか、僕自身あまり理解できているわけではありません(笑)。もちろん新しいメディアであることは分かっていますし、たとえすべてを理解できなくても、僕の中で反応するものがありました。

 稚拙な感想になりますが、“新しい風”を感じたのです。僕が未来だとか新しいものを含むSF作品を書いているため、新しい物事に興味を示してしまうのかもしれません。せっかくイチから新しいことを始めるなら、信用できる会社と一緒にこちらもすべてをさらけ出して、良いお付き合いができればと思いました。C&R社の話を聞くと、オール・オア・ナッシングの精神で、本気で取り組んでくれる方たちだと分かったので、それならやってみようと。

—— 今回の取り組みに関して、魅力的に感じたのはどのような部分でしたか。

椎名 物書きの立場として魅力的だと感じたのは、すでに絶版となった作品を復活させられることです。僕には二百数十作以上もの著作があり、60刷ほど長く版を重ねた文庫もあります。その反面、増刷されることもなく消えていく本もあります。初期の作品では絶版になったものも多いんです。

 そういった消えてしまいそうな作品をこのシステムで復活させることで、今までとは違う世代の読者が手に取ってくれる可能性が出てくるのではと期待しました。埋もれかけたものが復活するのは作家としてとても嬉しいことなんですよ。

—— これまでの読者とは異なる世代の読者というと、どれくらいの世代の方を想定されていますか。

椎名 最初は若者を想定していました。でも、実際に刊行してみると、若い方だけではなく、僕より上の世代の方も読者になってくれることがあるんだなと感じています。中高齢者の中には、文字を大きく表示できる電子書籍の方が紙より読みやすいということで日常的に使っている方もいるようですね。

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