弥生は、2012年9月に同社初のクラウドサービス「やよいの店舗経営 オンライン」をスタートした。当初は1年間で3000ユーザーの獲得を目標としていたが、約9カ月たった現在のユーザー数は約100と低調だ。「運営する中でさまざまな課題が見えてきた。1つ1つの課題を解決し、徐々に普及を図っていきたい」と、岡本浩一郎社長は巻き返しを狙う。
やよいの店舗経営 オンラインは、小売業や飲食業、理美容業などを営む小規模事業主向けに、経営管理ソフトの機能をクラウド経由で提供するサービス。ユーザーは、日々の入出金や売り上げ日報などをWebサイト上で登録することで、売り上げや利益の進ちょく/予測といったデータをグラフ化して閲覧できる。
事業主は、弥生が提携しているパートナー会計事務所(PAP)経由で同サービスを利用する。登録した記帳データはクラウド上にアップロードされ、PAPと共有することで、遠隔地からでも会計士による経営上のアドバイスなどを受けられる仕組みだ。
「事業主にとっても会計事務所にとってもメリットのあるサービス」と岡本社長は胸を張る。だが実際に運営していく中で、普及に向けて大きく2つの壁が浮き上がってきたという。
1つ目の壁は「会計事務所に“繁忙期”があること」(岡本社長)。会計事務所は一般的に、12月〜翌年5月頃までは法人決算の申告などで繁忙期となる。「そうしたタイミングで会計事務所に新しい種類のサービスをアピールしても、なかなか受け入れてもらうのが難しかった」と岡本社長は明かす。
2つ目の壁は、同サービスが複数店舗での利用に対応していなかった点だ。「パートナー会計事務所に話を聞くと、複数の店舗をまたいで経営管理を行いたいという顧客ニーズが意外と多かった。しかし、これまではそうしたニーズに対応できる機能を用意していなかった」(岡本社長)
そこで、繁忙期を抜ける6月以降にPAP向けプロモーションを再び強化するほか、11月には複数店舗に対応する機能も追加するという。さらに、会計事務所との取り引き経験のない新規事業主向けに、弥生が直接コンタクトを取ってPAPを紹介するサービスなども展開するとしている。これらの取り組みが「普及に当たって1つの大きなターニングポイントになれば」と岡本社長は期待を込める。
また、2013年末までをめどに、やよいの店舗経営 オンラインに次ぐ第2弾のクラウドサービスも投入予定という。サービス詳細は明かされていないが、「起業したばかりで会計の知識が浅い小規模事業主でもライトに使えるサービスにしたい」と岡本社長は話している。
会計ソフトのクラウド化は
弥生が発表した2012年度の売り上げは102億3000万円と、前年比6%増のプラスを記録。やよいの店舗経営 オンラインのユーザー数は目標に及ばなかったものの、現時点で同サービスが同社の売り上げ全体に及ぼす影響はそう大きくないとのことだ。
岡本社長によると、同社はやよいの店舗経営 オンラインなどの新規事業に取り組む一方、今後は弥生会計などの主力ソフトのクラウド化にも取り組んでいくという。ただし、それは会計ソフト全体の機能をクラウドサービスとして提供するのではなく、データベース部分だけをクラウド上に用意し、デスクトップ版アプリからアクセスして利用するイメージになる予定という。
「会計ソフト全体をクラウド化しようとすると、どうしてもパフォーマンス面などがデスクトップ版と比べて劣ってしまう。そこで現在、データの部分だけをクラウド上に保存できる仕組みを開発しており、“場所を選ばず使える”といったクラウドならではのメリットを提供できるよう準備している」と岡本社長は話す。
具体的には、2014年末の提供開始を目標に、Microsoftのクラウド型リレーショナルデータベース「Windows SQL Azure」を基盤として開発していくという。
一方、同社はパッケージ版の会計ソフトも継続して提供していく考えだ。「当社のクラウドサービスへの取り組みは、あくまで顧客にプラスの価値を提供するのが目的。マイナス面が出てしまうものなら顧客に無理強いはしないし、今後もパッケージ版とクラウド版という2つの選択肢を提供していく」と岡本社長は話している。
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入出金などのデータを専用サイトに登録することで経営状況を容易に把握でき、提携する会計事務所ではデータの取得を通じて報告書作成などの業務を効率化できるという。
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