ビットコイン取引所に対し、正体不明の出所から仕掛けられている大規模なサイバー攻撃は、ビットコインのようなデジタル仮想通貨を現金と交換する上でのリスクを浮き彫りにしている——。専門家が2月12日、そう指摘した。
ビットコインの保管と現実通貨への換金を行うオンライン交換所を狙った一連の攻撃は、専門的には「分散型サービス拒否攻撃(DDoS)」と呼ばれるものだ。攻撃によって、実体のない取引が大量に発生したことから、これまでに少なくとも3カ所のオンライン交換所が、どの取引が本物かを見極められるまでの間、ビットコインの引き出しを停止する措置を余儀なくされている。
今回の件では、インターネットベースのそのほか各種のビジネスと同様、ビットコインもこの種の攻撃に弱いことが示された。ビットコインはサイバースペースでのみ流通しており、正体不明の個人あるいは複数のプログラマーによって書かれたソフトウェアコードで動作している。今回の攻撃では、ドルなどの通常通貨と比べ、ビットコインの保有や取引は高いリスクを伴うことが露呈した。一連の混乱を受け、ビットコインの取引価格は急落している。
「ビットコインはまだ初期の試験的なプロトコルの段階にある」。ビットコインの普及推進団体Bitcoin Foundationの役員を務めるベンチャー投資家のミッキー・マルカ氏は、そう語る。
「ビットコインは時間をかけて成長、成熟していく。損をしても大丈夫な額しか投資すべきではない」と、同氏は続ける。
ビットコインの動向を追跡し、オンラインでビットコイン口座を提供しているWebサイトblockchain.infoの最高セキュリティ責任者、アンドレア・アントノプロス氏によれば、ビットコインに対する攻撃は今回が初めてではないという。
アントノプロス氏はビットコインの中核プログラマーの1人であり、今回、緊急対策チームのメンバーとして、攻撃対象となったソフトウェアの不具合の修正に取り組んでいる。Bitcoin Foundationの広報担当者が既に発表しているとおり、アントノプロス氏も「修正は今週半ばまでに完了する」との見通しをあらためて繰り返している。Bitcoin Foundationの広報担当者によれば、目下、ビットコインの中核プログラマーが一丸となって不具合の修正にあたっているという。
ビットコインは、オンラインで価値を交換するための分散的なシステムであり、銀行や企業や政府などの中央機関による仲介は一切ない。またビットコインには価値を裏付ける資産がないため、認知度の高まりとともにその価値は大きく変動しており、2013年9月には150ドル前後だった取引価格が、12月下旬には1000ドル近くまで上昇している。
各国の規制当局はビットコインの分類にも頭を悩ませており、通貨とするか、コモディティとするかで意見が分かれている。ユーザーはビットコインを通貨と呼び、「コストと時間がかかる銀行取引の問題を解消できる手段」として、大規模な採用を期待する声も数多く上がっている。
早期採用者は、個人情報を一切やり取りせずにユーザー間で交換できるビットコインの匿名性も気に入っている。ただし目下、多くの規制当局がビットコインをマネーロンダリング(資金洗浄)に悪用しているユーザーを追跡し、取引を規制しようという取り組みを進めていることから、近い将来、取引の匿名性が薄れることも予想される。
11日には、スロベニアに拠点を置くBitstampが、サービス拒否攻撃を受けて「取引内容に矛盾が生じている」として、引き出しを停止している。大手のビットコイン取引所が引き出しを停止したのは、これが2件目だった。
この前日には、東京を拠点とするマウントゴックス(Mt.Gox)が無期限で引き出しを停止する方針を発表。これを受けて、ビットコインの取引価格は約2カ月間で最も低いレベルまで急落した。
アントノプロス氏によれば、ブルガリアにあるビットコイン取引所も引き出しを停止しているという。
ビットコインはここ数カ月で利用者が拡大していたが、一連の攻撃を受けて、取引価格は1月下旬の約850ドルから急落している。ビットコイン追跡サイトのCoinDeskによると、ビットコインの取引価格は2月12日には656ドルと、1日で2%近く下落している。
「ビットコインで取り引きをしている人は誰であれ、攻撃に備えておく必要がある。攻撃はもはや、起きるかどうかではなく、いつ起きるかの問題になっている」と、ブログKrebsOnSecurity.comを運営するサイバーセキュリティ専門家のブライアン・クレブス氏は指摘する。
「投資家にとって教訓となったのは、ビットコインは当初言われていたほど“いつでも現金化できる”ものではないという点だ」。コンサルティング会社Corgentumの業務執行社員で金融調査専門家のジェイソン・シャーフマン氏は、そう指摘する。
「攻撃を受けて、事実上、一部のアカウントが凍結している。交換所は間違った相手に支払いをしたくないからだ。凍結などで、自分のビットコインを回収できるかに不安が残るようでは、ビットコインの価値は下がる」と、シャーフマン氏は語る。
「この点は、投資家を尻込みさせる要因となるか? 答えはイエスだ」と、同氏は続ける。
シャーフマン氏によれば、こうした攻撃のリスクを緩和するためには、ビットコインの保管場所を複数のオンラインストレージに分散させるのも1つの方法だという。この方法なら、仮に1カ所を攻撃されても、別のところがまだ安全に使える可能性があるからだ。
さらに同氏によれば、規制当局がビットコイン取引所への精査を強化すれば、交換所の安全性も高まるはずという。
「規制によって、どの交換所が安全かを見極めやすくなる。セキュリティ対策が義務付けられれれば、恐らく小規模な交換所の中には基準を満たす余裕がないところも出てくる」と、同氏は語る。
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