第18回「震災対策技術展」横浜(会期:2014年2月6〜7日/場所:パシフィコ横浜)に出展した情報通信研究機構(NICT) ワイヤレスネットワーク研究所は、災害発生時に通信手段が断絶された被災地とのネットワークを確立するためのシステムとして、「小型無人飛行機による災害時無線中継伝送システム」と「超高速インターネット衛星『きずな(WINDS)』用小型車載局(衛星通信用車両)」を披露した。
これらのシステムは、東日本大震災の教訓を受け、災害発生時などに情報孤立地域となった被災地を救済すること、被害状況の迅速な把握や救援部隊との連絡手段として活用することを目的に開発されたもの。「3.11の際、被災地の地上系通信設備に甚大な被害が発生した。復旧にも多大な時間を費やし、被災地との情報交換が困難な状況に陥った。通信が断絶すると、救援活動の初動に遅れが生じるため、こうしたシステムの開発が急がれていた」(説明員)という。
情報孤立地域を救う、小型無人飛行機
小型無人飛行機による災害時無線中継伝送システムは、小型無人飛行機「PUMA-AE」(米エアロバイロンメント社製)と、地上に設置して用いる「簡易型地上局装置」とで構成される。NICTは、PUMA-AEに載せる無線中継装置(装置開発:NEC)と、簡易型地上局装置との中継伝送のシステム開発を行っている(関連記事:通信網の遮断を空から救え!! ——小型無人飛行機が孤立した被災地との間を結ぶ)。
ネットワーク接続可能地域と孤立地域(被災地)に、それぞれ簡易型地上局装置を設置し、無線中継装置を搭載したPUMA-AEを飛ばし、上空を旋回させることで、通信環境を確立できる。
「全国の各地方自治体に、簡易型地上局装置を配備することで、災害時の情報孤立地域をなくせる。災害発生時、被災地側に簡易型地上局装置を配置し、無線LANアクセスポイントに接続すれば、臨時の無線LANホットスポットも作れるため、被災者自身が安否確認サービスを利用して、外部に状況を伝えることができる」(説明員)。
無人飛行機として採用されたPUMA-AEは、翼長2.8m、機体重量5.9kgで、「助走を付けて手投げすれば、飛ばすことも可能だ」(説明員)という。気象条件などにもよるが、2〜3時間程度の連続飛行が可能で、通信可能距離は15km、飛行可能高度は5000mである。GPSを内蔵しており、コンピュータによる自律飛行・着陸も可能。無線中継装置の重量は470gで、本体の中心部分に内蔵されている。一方の簡易型地上局装置は重量約6kg(電源は除く)で、持ち歩きによる運搬が可能。同システムによる実効通信速度は450kbps程度だという。「PUMA-AEを2機同時に飛行させることも可能で、2機間を中継させれば通信距離をさらに延ばすことができる」と説明員。
2013年12月24日までに、トータル100フライト以上、総フライト60時間以上の実証実験を実施。「今後、さらに実証実験を繰り返し、どのくらいの実効値(通信速度)が出るかなどを検証し、研究開発を進めていく予定」(説明員)とのこと。また、東京電力・福島第一原子力発電所付近に生息する野生動物にセンサー(線量計、GPSなど)内蔵の首輪を付けて、放射線量などを測定するプロジェクトが進行しており、それらセンサー情報を取得する通信手段として、この無線中継伝送システムを活用しようという話もあるそうだ。
Copyright© 2014 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.