「ライフハック」に関心のある読者であれば、梅棹忠夫氏の名前は知っている人も多いはずだ。民族学者・人類学者であった氏が1969年に刊行した『知的生産の技術』は、40年以上経った現在でも版を重ね多くの人に読み継がれている。知的生産の為に思い付いたアイデアをカードに全てを記録し、「こざね」と呼ばれる紙片にその要素を書き写す。そして思考を整理するそのスタイルは、ITが発展した現代にも通じるものだ。
2013年12月16日、大阪ナレッジキャピタルで『知的生産の技術』を振り返り、氏の発想法、思考法を再確認した上で、現代に通じるものにしていこうという意欲的なイベントが行われた。今後も定期的に開催されるこのイベントのキックオフの模様をお伝えしたい。
本企画のきっかけになったのは、2011年から12年にかけて大阪・東京で開催された「ウメサオタダオ展—未来を探検する知の道具—」だ。梅棹忠夫氏が設立に尽力した国立民族学博物館の小長谷有紀(こながやゆき)教授、ウメサオ展でインタラクティブな展示を手掛けたATR Creativeの高橋徹チーフプロデューサーらが中心となっている。
梅棹忠夫は「情報」が何かを知っていた
冒頭、趣旨説明の中でこれまでの取り組みとしてウメサオタダオ展でのインタラクティブ展示を紹介した高橋氏は、『知的生産の技術』を初めて読んだとき、梅棹忠夫は「情報」がどういうものなのか、その本質を捉えていることに衝撃を覚えたという。そんな梅棹氏が編み出した技術——例えばカードを使った情報の記録、再活用を展示の中でどのように体験してもらえるかに知恵を絞り、それをウメサオタダオ展にも反映したという。例えば、他の来場者が作成したカードをディスプレー上で見ることができたり、デジタル化されたカードを、あたかもキャビネットから拾い上げられたりするようなUIを用意した点だ(展示期間中はiOS向けアプリも無料提供した)。
「梅棹忠夫は情報学の創始者と言え、世代は違えどもアラン・ケイや、スティーブ・ジョブズ、マーク・ザッカーバーグらと歴史的に並び立つべき存在だ」と高橋氏は力説する。そんな日本発の知の巨人をぜひ高等教育の中でも紹介されるように、この会の活動を通じて働きかけて行きたいと抱負を語った。
徹底した記録が生み出す知的生産
梅棹氏と共にモンゴル研究を行い、現在は氏の著作や資料の整理・再編も主導しているのが、国立民族学博物館の小長谷有紀教授だ。小長谷氏は、「今では当たり前になっているプリント写真に日付を入れることを考案したのは梅棹氏」といったエピソードを紹介しながら、梅棹氏がどのように記録に情熱を注いでいたのかを語った。
「知的生産の技術とはある種の思想だ」と小長谷氏は指摘する。さまざまな自然環境、文化・文明を横断する旅でもあったモンゴルでの綿密なフィールドワークは、のちの「文明の生態史観」につながっていくのだという。
コンピュータがまだ普及していなかった時代に、フィールドワークの記録をノートからカードに取ることで断片化し、まとめておくスタイルを確立した梅棹氏は「整理魔・記録魔だった」(小長谷氏)。さらにカードごとにふさわしい題(タイトル)を付け、インフォーマント(調査対象者)を記号化(付番)。出典を明記するといったことを徹底することで、後からそれらの記録を特定のテーマで抽出し、振り返り、新たな知的生産につなげることが可能になったのだという。
Evernoteのような情報管理アプリが活用できる私たちにも、学ぶ点が非常に多いと取材した筆者も認識を新たにした。小長谷氏は今後も梅棹氏の資料や逸話を紹介しながら、現代の知的生産の技術の構築に役立てていって欲しいとプレゼンテーションを締めくくった。
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