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電子書籍の対面販売――冬コミブースに突撃

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 日本のポップカルチャーにおける一大イベント「コミックマーケット(通称:コミケ)」。去る12月29日から31日に開催された「コミックマーケット85(冬コミ)」開催前に、ある発表が注目を集めた。

 それは、電子書籍頒布補助団体 対面電書が発表した「対面電書」システム。リリース文には、冬コミ2日目に「サークル:自転車操業」として出展、自ら電子書籍の対面販売を行うことが明らかにされていた。またそこで販売する電子書籍には「対面電書の仕組み」を解説してあるということだったので、2013年12月30日、冬コミ2日目に、自転車操業の出展ブースに突撃取材を敢行した。

メリットを理解した上で電子書籍と共存させたい

—— 同人イベントに電子書籍を紛れ込ませる、という構想は、いつ、どのようなことがきっかけで思いついたのでしょうか。

自転車操業・かざみみかぜ。氏(以下かざみ) 2012年から2013年の冬にかけて思いつきました。僕自身もこのように同人誌を作成していますが、イベントに合わせて印刷所への入稿スケジュールが厳しい、という課題を抱えていました。

 またイベントの際、印刷された同人誌を会場に搬入するには、宅配業者を利用する必要がありました。でも、自分の手で搬入できる程度の荷物なら、その手配の手間を省くことができます。

 電子書籍であれば、購入者に渡すものはこのシリアルの印刷されたカードだけなので、印刷時間、コスト、物量が最低限で済みます。

 イベント終了後も、紙の書籍だと売れ残ったものを持ち帰るのは大変ですし、それが部屋のスペースを占めてしまうこともあります。でも、この方法ならそういう課題も解決されます。前回のコミケで『同人イベントに電子書籍を紛れ込ませる。』電子書籍版を頒布してみたのですが、制作からイベント終了後までこれらのメリットを実感できました。

 実をいうと、このイベント直前にインフルエンザにかかってしまい、もうろうとした頭で新刊(『同人イベントに電子マネーを紛れ込ませる。』)の制作をしていたため、データを全部吹っ飛ばしてしまい、あせっていました。でも、電子書籍で頒布することに決めていたので、前日まで原稿作成に当てることができ、本当に電子書籍にしておいて良かったと実感しました。

—— だから今日はマスク着用なのですね。ところで、電子書籍を販売する場合、ファイルをDRMでガードするなど、複製できないようにしていることが多いと思いますが、発表した「対面電書」で頒布されるPDFにはプロテクトがかけられていません。なぜ“フリー”にしたのでしょうか。

販売ブースの様子販売ブースの様子。紙のものは見本のみ

かざみ 自分が購入する側だったら、読める端末に制限がかけられてしまう、というのが嫌だったというのがあります。確かに、コピーされてしまう危険はありますけど。ダウンロードに関しては、シリアル使用日から1週間以内、もしくは5回までしかダウンロードできない、という制限がありますから、販売側が無限に損をすることはないと思います。

—— あくまでも、ユーザー目線でのサービスなんですね。今後は、どのように展開していく予定ですか。

かざみ 同人誌を電子書籍にするメリットはいろいろあると思います。対面電書サービスはローンチしたばかりなので、今のところ自分以外の利用者はいないんですが、今回のイベントを通して、その便利さを感じてもらえ、利用してくれる人が増えたら、と思っています。使ってもらうことで、この先、どうしていけばいいか、という道が見えてくるんじゃないかと思います。

 ただ、僕が目指しているのは、同人イベントで頒布するものを全部電子書籍にしよう、ということではなく、あくまでも「電子書籍を紛れ込ませる」ことで、紙媒体と電子媒体をこのようなイベントで共存させていきたい、ということなんです。それぞれのメリットを理解した上で作る側にも買う側にも選択肢が増えたらいいのでは? と考えています。

なぜ同人イベントで販売するのか

 電子コンテンツなら、オンラインで販売すれば良いのでは? という疑問に対して、かざみ氏は『同人イベントに電子書籍を紛れ込ませる。』の中で次のように述べている。

しかし、同人イベントは単に本を売るだけの場所では無く、頒布者と購入者が対面で直接やりとりする為の場でもあります。
(中略)
様々な理由で『直接手売りする』事に意味と価値を感じている人が多いが故に、同人イベントというのは続いている筈です。
 その日その時その場所に来て買う、祭りとしての場、そして今までに知らなかった本との出会いの場、という側面が大きいのは確かでしょう。
(中略)
手渡し出来なければ意味が無い、でも今後は極力電子書籍という形式で売りたい。
それをうまく両立させようと試行錯誤を重ねた結果、対面販売においても、スムーズに電子書籍を販売する道筋が見えて来ました。

 取材時には、電子マネー払いを導入しているという珍しさも手伝って、狭いブースの前に人だかりができており、見ている前で次々と電子書籍ダウンロード用シリアルの印刷されたカードが売れていた。

 電子書籍をセルフパブリッシングしても、人目につくことは少なく、TwitterなどSNSを利用して宣伝して告知しても購入に至らないことも多い。しかし、同人イベントで対面販売すれば、数値化された詳細なデータは取れないとしても、マーケティング活動の原点ともいえる売れ行きや購買層、さらには購入時の表情まで見えてくる。セルフパブリッシングされた電子書籍販売の新しい形を目の当たりにしたような気がした。

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