2013年の本連載の最後を飾るのは、シャープの“AQUOSクアトロン プロ”「LC46XL10」だ。今年は55インチ以上のクラスに各社から力の入って4Kテレビが出そろい、話題をさらったが、一方で40〜50インチ・クラスにキラリと光る興味深いフルHDモデルの新製品もいくつか登場してきている。なかでも筆者がこの冬もっとも注目しているのが、先月本欄でとり上げた東芝「47Z8」と本機、シャープ「LC46XL10」だ。
ハイビジョンテレビ(1920×1080ピクセル)の推奨視距離は3H(画面高の3倍)。その位置で観ることを想定した場合、50インチを超えると画素構造が目立つので4K解像度(3840×2160ピクセル)が必要といわれてきた。逆にいえば、シングルルームやベッドルームなどの狭小空間で3H程度の視距離で観るのであれば4Kテレビの解像度は不要ということにもなるわけだが、そんな視聴環境で画質のよいフルHDテレビを「お一人様」専用で使いたいという方にぜひご注目いただきたいのが、LC46XL10なのである。このテレビ、40〜50インチ・クラスで今もっとも精細度の高いテレビと断言できる。そして、その秘密はシャープ・オリジナルの「クアトロン プロ」にある。
では、クアトロン プロとは何か。RGBの三原色に加えてY(イエロー)のサブピクセルを加えて色彩表現を高めたのが、シャープ独自の“4原色技術”「クアトロン」。その提案から3年が経過したこの秋、この4原色技術を応用して4K相当の高精細映像を得ようというのがクアトロン プロなのである。
フルHDパネルに4K×2K相当の高解像度映像が映し出せる? にわかには信じられない話だが、実際にシャープ開発陣に本技術の詳細をたずね、LC46XL10の画質をじっくり精査して、なるほどこれは興味深いアイデアが盛り込まれた、実にユニークな発明だと感心させられた。
フルHDパネルの画素数を水平/垂直それぞれ2倍にすれば4K解像度が実現するわけだが、画素数はフルHDそのままに、4K「相当」の精細感を実現するのがクアトロン プロ。なぜそんなことができるのか、その秘密を探っていこう。
まず「水平」の秘密から。R(赤)・G(緑)・B(青)の3原色サブピクセルにY(黄)のサブピクセルを加えた4色で1画素を形成するのがクアトロンパネルの特長。4K入力信号の水平解像度は先述の通りフルHDの2倍。そこでクアトロン プロ開発陣は、左からRGBYと横並びに配列されたサブピクセルのうち、視感上の解像度を決定付ける輝度ピークをGの他にY(G+Rの波長成分)が持っていることに着目、左からRGBで1画素を、BとYで1画素を表現する独立制御による倍密画素駆動を発想、それを実現することで水平方向の見かけ上の解像度を2倍に向上させたのである。
いっぽう「垂直」については、クアトロン・パネルのRGBYのサブピクセルが上段と下段に分けられていることに着目した。元々これは視野角を広げるために、上下2分割されたサブピクセルのそれぞれの階調再現を切り替えるMPD(マルチ・ピクセル・ドライブ)と呼ばれる駆動法実現のために発想されたもの。フルHDクアトロンパネルでは、上下それぞれのサブピクセルを個別駆動することはできないが、上段と下段のサブピクセルに4K入力信号の垂直2画素分をそれぞれ割り当て、120分の1秒単位で上下順番に光らせれば(=黒挿入すれば)、60分の1秒ごとにフルHDの2 倍の垂直情報が得られるというわけだ。これは実に見事なアイデアというほかない。
シャープ開発陣によると、4原色サブピクセルを用いた水平倍密処理については、クアトロン商品化の直後、早い時期から実験が試みられたという。しかし、水平処理のみによって得られる4K(相当)×1Kの高画質効果はさほどでもなく、このままではものにならないのでは? という感触だったそうだ。
その後、MPDパネルの垂直時分割表示のアイデアがもたらされ、開発陣がその実験映像に高精細化の手応えを感じた約1年前から一気に開発に弾みがつき、クアトロン プロの商品化にこぎ着けたという。
水平・垂直どちらかだけの処理では高精細化の実感が得られず、両方がバランスよく処理されることで、人はその効果を飛躍的に感じ始めるというのもとても興味深い話だ。ちなみに、このクアトロン プロによる水平倍密化と垂直時分割表示効果を4K化ではなく、4K化相当とシャープが呼んでいるのは、色信号の解像度アップ処理を行っていないからだという。
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