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三陸復興の鍵を握る「水産業クラウド」

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 日本IBMは12月9日、宮城県仙台市のウェスティンホテル仙台にて経営者向けの年次カンファレンス「IBM リーダーズ・フォーラム 2013 東北」を開催した。同イベントは、昨年秋から同社が展開しているもので、東京のほか、支社のある東北、中部、関西、西日本地域で実施している。

日本IBMのマーティン・イェッター社長日本IBMのマーティン・イェッター社長

 オープニング講演では、日本IBMのマーティン・イェッター社長が登壇。現在の企業経営を取り巻く状況とITの結び付きについて語った。

 イェッター氏によると、IT業界の大きな変化の波は約10年を一周期に訪れるものだが、現在においてはモバイル、ソーシャル、クラウド、セキュリティ、ビジネスアナリティクスといった複数の技術トレンドが同時に進行するユニークな時代にあるという。

 「例えば、過去2年間で生み出された全世界のデータ量は24億ギガバイトに上り、これは人類がこれまで生成したデータ量の9割に当たる。こうした大きなパラダイムシフトによって、これまでとはまったく異なるシステムが要求される。それは大量データを処理するためのシステムであったり、学習能力のあるシステムであったりする」(イェッター氏)

 そうした中で、日本企業は今後どのような点に注力していけばいいのか。「日本にはほとんど天然資源がないため、企業が差別化を図るためにはイノベーションが不可欠。その競争力の源泉となるのがデータの活用だ」とイェッター氏は強調する。特に東北地域においては、農水産物をはじめ質の高い商品を世の中に生み出している。トレーサビリティ情報などさまざまなデータをいかに活用していくかが重要だとしている。

三陸の食文化を世界に発信

 その先進的な事例として、同イベントで紹介されたのが、岩手大学と水産加工品製造販売の北三陸天然市場、日本IBMによる共同プロジェクトである。

 これは総務省が2012年に公示した「情報流通連携基盤 水産物トレーサビリティ情報における実証実験プロジェクト」にあたるもので、震災地の重要な産業である水産業に着目し、水産物の安心・安全にかかわる情報を消費者に提供するとともに、水産物トレーサビリティ情報のデータ規格を開発、実証することを目的としている。

 具体的な取り組みとしては、岩手県久慈市の漁港で水揚げされた水産物を北三陸天然市場が加工して東京・築地の料亭「魚河岸三代目 千秋」に出荷する際、水産物に個別識別タグと温度センサタグを取り付ける。料亭に到着すると、同梱されたタグから漁港の名前、水揚げ日時、採捕方法など水産物自身の情報のほか、出荷から到着までの水産物の温度変化情報を細かく把握できるという仕組みだ。「トレーサビリティシステムによってこのように温度管理がしっかりなされていることは消費者に対する保証になるし、出荷元との信頼関係の構築にもつながる」と、千秋の店主である小川貢一氏はコメントする。

岩手大学の小野寺純治教授(左)と北三陸天然市場の小笠原ひとみ代表岩手大学の小野寺純治教授(左)と北三陸天然市場の小笠原ひとみ代表

 この一連の仕組みを支えているシステム基盤が、日本IBMのクラウドサービス「IBM Smarter Cloud」である。日本IBMは2011年9月に「水産業クラウド部会」を設立。ICTやクラウドを活用した新しい水産業ビジネスモデルを構築し、日本の水産業の高益化、ブランド競争力の向上を図るとともに、消費者にとって安心、安全な水産物の流通、提供の仕組みを検討していくことを目的とする。この部会では、既に釧路の水産加工業者と全日本空輸が協力し、東京で鱈の刺身を食べるというプロジェクトを展開していた。「これは岩手でも応用できるのではないかという思いで門を叩いた」と、岩手大学 地域連携推進センター 副センタ—長の小野寺純治教授はプロジェクトの経緯を振り返る。

 小野寺氏には強い危機意識があった。もともと三陸の水産業は、わかめ、あわび、うに、ほたてなど湾内で収穫できる産品の「質」や「希少性」を重視しており、「量」の販売ではなかった。そうした中、東日本大震災によって岩手県の水産業は3500億円以上の被害を受けた。「水産業の復興なくして三陸の復興はない。産品のブランディングを強化し、三陸から世界へ食文化を発信したい」と小野寺氏は意気込む。その上で、ICTを活用して消費地に新鮮な産品をダイレクトで届けることは、価値の大きなアピールにつながると考えた。

 プロジェクトのメンバーとなった北三陸天然市場の小笠原ひとみ代表も、三陸の水産業復興に強い思いを持っていた一人だ。「まずはやってみないと始まらないと思った。その結果、いろいろな分野の人たちの協力を得て、付加価値のあるもの作りや新たな販路開拓、トレーサビリティによる安全な出荷を実現できた。この取り組みによって復興のお手伝いができれば」と力を込める。

 今後の展開としては、トレーサビリティシステムをいち早く実用化し、新鮮で安全な魚介類を世界に提供していくとともに、利益を生み出すシステムとして確立していくことが不可欠だとした。

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