2013年に最も注目を集めたソーシャルゲームといえば、“艦これ”こと「艦隊これくしょん」(角川ゲームス/DMM.com)であるといっても過言ではないだろう。
艦これは、提督となって擬人化された艦船の「艦娘」を集めて育成したり、艦隊を組んでバトルしたりするゲーム。実在した旧日本海軍の艦船を美少女に擬人化するなどのユニークな発想に加え、戦闘で一度撃沈された艦娘は復活させられないなどシビアなルール設定なども注目を集め、今年4月のサービス開始ながら12月2日にはユーザー数が130万を突破。現在も新規ユーザーの登録に制限がかけられているなど、人気が継続している。
このゲームが非常に特徴的なのが、Webブラウザ上で動作するタイプのソーシャルゲームであり、PC向けのゲームということだ(リリース時にスマホ対応がうたわれたが、現時点では正式にサポートされていない)。従来ヒットしたソーシャルゲームは、いずれもモバイル向けのものがほとんどで、“艦これ”はある意味、そうした状況に風穴を開けたタイトルになったといえるだろう。実際、PC中心のソーシャルゲームで会員数が100万を超えるのは、かなり異例のことだ。また、いわゆる“ソーシャル性”があまり高くないのも特徴といえるだろう(ただ提供側はソーシャルゲームと位置付けている)。
そうした艦これ人気から、このゲームをモバイルで遊びたい“提督”の方々も、少なからずいるのではないだろうか。そもそもスマートフォンやタブレットは、PC向けのWebサイトを閲覧しやすいよう作られているので、Webブラウザで動作するゲームであればプレイできるはず……と考える人がいても、おかしくはない。
だが「Safari」や「Chrome」など、スマートフォンに搭載されている通常のWebブラウザで艦これをプレイしようとしても、残念ながらゲームを遊ぶことはできない。そこで、マイクロソフトの「Surface Pro」など、Windows OSを搭載したタブレットを使って、外出先で艦これをプレイしようという提督達まで現れ始めているようだ。
iOSの対応拒否で立ち位置を失ったモバイル向け「Flash」
ではなぜ、ブラウザゲームの“艦これ”がスマートフォンでプレイできないのだろうか。その理由は非常に簡単で、艦これがAdobe Flash(以下Flash)で動くゲームだからだ。
すでにほとんどの人がご存じと思うが、FlashはWebブラウザ上でアニメーションやインタラクティブコンテンツなどを提供するための仕組み。PC向けのWebブラウザであれば、「Flash Player」のプラグインをインストールして利用できるし、フィーチャーフォンでもモバイル機器向けの「Flash Lite」が搭載されてきたことから、広く用いられている馴染みのある技術でもある。
それだけ広く普及してきたFlashだが、実は現在、iOSやAndroidなど、国内で主流を占めるスマートフォンのプラットフォームは、イレギュラーなことをしない限りFlashを動作させることはできなくなっている。その理由は、AppleがiPhoneやiPadなどのiOSデバイスで、Flashのサポートを拒否したことに端を発する。
GoogleがAndroidでのFlashをサポートを表明した2010年4月、Appleは「Thoughts on Flash」という声明文を発表した。FlashはHTML5と比べクローズドな存在であること、セキュリティが弱く、またバッテリーの消費が激しいこと、そして何より、最新の技術でないFlashによるクロスプラットフォームのアプリケーションが増えることがAppleのメリットにならないと判断し、iOSでFlashをサポートしないことを明確に表明したのだ。
この結果、Flashを開発しているAdobeは、iOS向けFlash Playerの開発が進められなくなったが、Android向けFlash Playerの開発は続けていた。しかしその後、HTML5の広まりや、iOSが市場で高い大きな存在感を示すようになったこともあり、AdobeはAndroid向けのFlash開発継続も断念。2011年11月にFlash Playerの開発を終了したほか、2012年6月にはAndroid 4.1以降のFlash Playerをサポートしないと公表したことで、Flashはモバイルでの立ち位置を完全に失ってしまったのである。
そうしたことから、現在販売されているスマートフォンで、Flashで提供されているコンテンツを利用することは、基本的にできない。どうしてもFlashに対応したコンテンツ、例えば“艦これ”を遊びたいというのであれば、クラウドでFlashを動作させる「Puffin Web Browser」を使うか、AndroidであればAdobeのWebサイトから、Flash Playerのパッケージを入手して導入し、利用すること自体は可能だ。だがいずれも正規の方法ではないので、さまざまな不都合が生じる可能性があることを肝に銘じておくべきだろう。
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