今後5年でICT(情報通信技術)市場はどう変化するか——。野村総合研究所(NRI)は11月27日、2018年度までの国内を中心とするICT市場の展望を発表した。同研究所はデバイス市場、ネットワーク市場、プラットフォーム市場(物品やサービスの販売に関わる)、コンテンツ配信市場の4分野においてトレンドを予測しているが、その中核となる要因はスマートデバイス(主にスマートフォンやタブレット)の普及だ。
2013年度はスマホの個人普及率が初めてフィーチャーフォン(従来型の携帯電話:ガラケー)を上回る見通しで、2018年度までにスマホの普及率は80%近くまで伸びるとしている。
まずデバイス市場では、低価格帯のデジタルカメラや車載端末といった機器の売り上げが減少するという。特にデジタルカメラは高画質な写真や動画を撮影できるスマホに押されて、世界的に売り上げが落ち込んでおり、2018年度には2011年度の半分以下まで販売台数が落ち込む見込みだ。
その一方で、スマートデバイスと連動するウェアラブル端末の市場が拡大するとしている。「ランニングを支援する腕時計やヘルスケア製品が登場してきたが、機器が小さく単価も安いことから、大企業よりもベンチャー企業の方が取り組みやすい。ニッチな製品も含め、今後はベンチャー企業がウェアラブル機器をけん引することになる」(同社ICT・メディア産業コンサルティング部の石綿昌平上級コンサルタント)
プラットフォーム市場ではEC(eコマース)のサイト数が増え、市場規模が拡大するという。阿和村聡上級コンサルタントは、この理由として、スマートデバイスで時間や場所を選ばずにECができるようになったこと、そして出店にかかるコストが低下しており、今後出店者が増える見込みであることを挙げた。決済についてもスマートデバイスでクレジットカードや電子マネーを使うシーンが増えるという。
「ECの方が実店舗より価格が安い場合、実店舗で商品を試用し、ECで購入する(ショールーミング)という人が市場の20%を占めるなど増えてきている。これからはO2O(Online to Offline)とともにリアルからネットへの人の流れも意識する必要がある」(阿和村氏)
コンテンツ市場における影響はどうか。こちらもスマートデバイスの普及に後押しされるように、電子書籍(新聞・雑誌を含む)の市場が今後5年で約3倍に増加するという。寺田知太上級コンサルタントは「われわれの予測よりもはるかに早いスピードでスマホが普及している。スマホ向けコンテンツ以外は、今後衰退する方向に向かうだろう。既存のコンテンツとスマホ向けコンテンツ両方で戦略を立てなければならない」と話す。
最近では、ドコモが運営する「dビデオ」やAmazon.co.jpの「Amazonインスタント・ビデオ」に代表される映像配信市場も伸びを見せているが、こちらは放送市場の約5%に相当する1600億円程度で頭打ちになると同社は見ている。「スマホの普及率によって上昇するものの、普及後は成長しにくい」(寺田氏)ためだという。
寺田氏は「ICT市場は成熟しており、限られたパイの奪い合いになっている。成長領域を見極め、既存の枠にとらわれないような新しい戦略が生き残るために必要。伝統的な手法と最先端の手法を使い分けて、問題の解決に当たるべきだ。例えば課題に対して、論理的思考だけではなく、システマティックに直感を取り入れるデザイン思考などを取り入れないことには、新しい解は見つからないだろう」と主張した。
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