「変だなと思ったんです。なんでそんなにお金がかかるの? って」——東京大学3年生の花房孟胤(はなふさ・たけつぐ)さん(24)は、高校生のころ、疑問に思っていたという。
友人が通っていた大学受験予備校「東進衛星予備校」は当時、DVD講義を受けるのに月数万円かかった。ブースでDVDを観るだけで数万円。「『なんでそんなに高いんだよ』という気持ちがあって。気に食わねぇなと。当時はビジネスとか、よく分かってなかったし」
だから自分で作ってしまった。受験勉強の講座を無料で視聴できるサイト「manavee」(マナビー)を。2010年10月にオープンし、3年経った今では約200人の講師が5500以上の動画を公開。全国の高校生など約5万人が視聴し、月間ページビューは約60万にのぼる。
数学、英語、国語など受験に必要な11科目の講義動画を公開。1回の動画は15分程度と集中力の途切れさせない長さに抑え、各分野をまとめて学べる「コース」も用意した。講義ごとに設置した掲示板で講師への質問も可能。受講者が確認テストを作って共有し、ほかの受講者が解く機能など、受講者同士で交流する機能も備えた。
プログラミングは未経験だったが、サイトの構築から講師用のマネージメントシステム作りまで、ほとんどのシステムを花房さん1人で作った。全国の大学を奔走して講師を集め、月数十万円にのぼる運営費用は、自らのアルバイト収入と寄付でまかなっている。
お金がなければ、都会に住んでいなければ、良質の受験教育を受ける機会が極端に減る。manaveeを通じ、受験格差を解消したいという。「教育は少なくとも、機会均等じゃないとダメだと思う」
manaveeを始めるまでは「教育に熱い人間ではなかった」。神戸市の母子家庭で育ったが、経済的にも地理的にも苦労した覚えはない。ただ「格差はあかんでしょ」と、自然に、普通に、そう思っていたという。
思いついたその夜にスタート 未経験からサイト構築
発端は3年前の2010年10月。食堂で友人と夕食を食べながら話していた。最初はだたの近況報告だった。「最近、英語を勉強しているんだけど、ネットには英語のニュースもドラマもあるし、英語で専門分野も学べるんだ」
当時、専門分野の英語を身につけようとしていた花房さん。さまざまな科目の動画講義を無料で学べる英語のサービス「Khan Academy」(カーンアカデミー)を使い、数学や情報学などの英語を学んでいた。
「でも、日本にはまだ全然そういうのがないんだよ。大学受験とかでもそういうのがあったら、便利じゃないかな」
ふとした思いつきに友人は賛成してくれ、「一緒にやろう」と盛り上がったが、本気になったのは花房さんだけだった。
その夜。Khan Academyのソースコードをメモ帳に書き写し、プログラミングの勉強を始めた。「今思うと、JavaScriptの自動生成されたコードだったんですけどね」。目標は、1カ月でサイトを作ること。翌日から大学に行かなくなった。
1989年生まれで“デジタルネイティブ”と呼ばれる世代。自宅にPCはあったが、高校のころは「週末にエロサイトを見るだけ」。予備校時代も、「ニコニコ動画を観て初音ミクに恋してしまいそうになったので」自宅浪人をやめ、PCのない予備校の寮で浪人していた。
大学では課題で出た3DCG制作にのめり込み、CG制作のアルバイトをするまでに上達したが、プログラミングは未経験。Khan Academyのコード写しから始まり、PHPのサンプルコード集を購入、500ページほどを5日ほどで読み、分からないことはネット検索で調べた。
「講師になってほしい」 東大生に声かけるも「ボコボコにされた」
「最高の授業を無料で届けたい」——予備校のカリスマ講師の授業を無料公開したかったが、雇うお金がない。実現性を考えて「東大生が無料で教えるサイト」に転向。ビデオカメラを購入し、空き教室を使って講義を自ら撮影したが、自分の講義はイマイチだった。
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