朝晩の肌寒さを増しつつあるサンフランシスコ市内では、街を歩く人々もどこか足早に見える。そうした中、多くの人々が足を止めて見入っているのが“青一色”に染まったモスコーニセンターだ。米国時間の11月19日、今年で11回目となる米salesforce.comの年次カンファレンス「Dreamforce 2013」が幕を開けた。事前登録者数は昨年の9万人を大幅に上回る約13万人で「過去最大規模」(同社)という。
モスコーニの北館と南館の間を通るハワードストリートは閉鎖され、巨大なパーティー会場が特設されている。ロックバンドによる演奏やスポーツカーの展示などが同時多発的に行われるお祭り騒ぎの中、初日の基調講演にトップバッターとして登場したのはもちろん、同社のマーク・ベニオフCEOだ。
企業を“モバイルレディ”に変える「Salesforce 1」とは
「われわれは常に顧客のことを考えている」——基調講演の中でベニオフ氏はこう切り出した。
スマートデバイスやソーシャルメディアが普及した今、人々はこれらのツールを使って無数の情報をインターネット上に生み出すようになった。「企業から見ればスマートフォンなどのデバイスが情報を生み出しているように見えるかもしれないが、全てのデバイスの裏側には必ず顧客がいる。これはいわば“Internet of Customers”(顧客のインターネット)だ」(ベニオフ氏)
人々が各種デバイスを使ってインターネットにつながることで、企業と顧客の関係性は変わりつつあるという。例えば、ベニオフ氏も愛用しているというPhilipsの最新歯ブラシは、位置情報をWi-Fi経由でネットに発信する機能を搭載。歯科医がモバイル端末で患者の“歯磨きデータ”を確認し、患者向けサービスに活用できるようになっているという。
「この歯ブラシを使い始めて以来、かかりつけの歯科医で言われる言葉が『ちゃんと歯を磨いていますか?』から『ずいぶん長い間“ログイン”していませんでしたが、何かありましたか?』に変わった。こうしたサービス革命は今後、歯科医だけでなくあらゆる企業の製品・サービスに及ぶだろう」
市場に出回るモバイル端末の数が50億を超えると言われる中、「非常にエキサイティングな時代だ」とベニオフ氏は強調する。とはいえ、全ての企業がすでにモバイル化の波に対応できているわけではない。同社の調べによれば、企業の約60%は顧客/従業員向けモバイルアプリの必要性を感じているが、実際にアプリをリリースできているのは30%程度にとどまっているという。
「多くの企業はモバイル端末をどう扱えばいいか分からず、大きな革命の波に乗り遅れてしまっている。この問題を解消し、アプリ開発者やパートナー企業、エンドユーザーなど全ての人々にモバイルの力を与えるのが『Salesforce 1』だ」(ベニオフ氏)
Salesforce 1は、大きく分けて(1)salesforce.comの各種サービスと連携するモバイルアプリケーションの開発環境、(2)作成したモバイルサービスを企業内のユーザーが実際に使うためのアプリ(Android/iOS)——で構成される。
(1)では、「Force.com」や「Heroku1」をはじめとするアプリケーション開発環境と、salesforce.comの各種クラウドサービスのモバイル向けAPI群を提供する。開発者は、Sales CloudのAPIを使ってモバイル向けCRMアプリを作成したり、Service CloudのAPIを活用してカスタマーサポートアプリを作ったりできる。さらに、Visualforceで開発したPC向けのユーザーインタフェースをわずかな手間でモバイルに対応させられるという。
(2)は、作成したさまざまなモバイルアプリを実際にユーザーが利用できるようにするためのネイティブアプリだ。すでにDropboxやEvernote、LinkedInなどが同アプリ上でサービスを提供しており、今後はアプリ開発コミュニティーを拡充してサービスを増やす予定としている。
先行ユーザーとして、すでにPhilipsやソニー・コンピュータエンタテインメントの欧州法人などがSalesforce 1を利用しているという。「Salesforce 1を使えば、既存のSalesforceサービスをモバイル向けに簡単に移行できるほか、新しいモバイルアプリも迅速に開発・展開できる。これは世界中で類を見ないモバイルプラットフォームだ」とベニオフ氏は話している。
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