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Nokiaの携帯端末事業を買収したMicrosoftの思惑

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両社トップが会見で語った買収劇の思惑

 米Microsoftが9月2日(現地時間)、フィンランドNokiaの携帯端末事業を買収すると発表した。買収総額は54億4000万ユーロ(約72億ドル)に上る。両社は2年半前に提携して以来、Microsoftの携帯端末用OS「Windows Phone」を搭載したスマートフォンの開発・販売で協業してきたが、一層のテコ入れを図るためにMicrosoftがNokiaの関連事業を買収する格好となった。

 両社の発表によると、Microsoftは現金37億9000万ユーロでNokiaの全社売上高のおよそ半分を占める携帯端末事業を買収するほか、Nokiaに特許使用料として16億5000万ユーロを支払う。また、MicrosoftはNokiaから約3万2000人の従業員を受け入れ、Nokiaのスマートフォンブランド「Lumia」を残す見通し。買収の手続きが完了するのは2014年1〜3月期の予定だ。

 これによって、Microsoftはスマートフォン分野においてOSだけでなくデバイスそのものに本格参入する。同社にとっては、ゲーム機「Xbox」、タブレット端末「Surface」に続くデバイスへの本格的な取り組みとなる。

スティーブ・バルマーCEOスティーブ・バルマーCEO

 今回の買収劇をめぐっては、スマートフォン分野に出遅れたMicrosoftが同分野で優位に立つGoogleやAppleを追撃するのが最大の狙いと見る向きが多い。さらにGoogleやAppleはタブレット端末市場でも優位に立っており、これまでPC市場で圧倒的な存在感を保持してきたMicrosoftとはいえ、これらデバイスのパラダイムシフトが起きつつある中で早急の対応が迫られている、との見方が少なくない。

 確かに、デバイスの観点からすると、こうした見方はその通りだろう。Microsoftもスマートフォン市場で確固たる存在感を持ちたいと考えているからこそ、今回の動きに出たのは間違いない。ただ、同社が今回の動きに出たのは、デバイスの観点だけではない思惑もあるようだ。その思惑は、フィンランドのエスポーで開かれたNokiaとMicrosoftの共同記者会見での両社トップの発言にも表れている。

 「スマートフォン市場が激変する中、Nokia単独では投資力が限られる。端末市場を発展させるには、OS、エコシステム、クラウドサービスとの連携が不可欠だ。Microsoftにはその力がある」

 こう語ったのは、Nokiaのリスト・シラスマ会長だ。一方、Microsoftのスティーブ・バルマーCEOは「今回の買収はMicrosoftの変革にとって非常に重要な出来事だ」と強調。また、「フィンランドにあるデバイス開発拠点は、Microsoftのスマートフォン開発の中核を担う。加えて欧州向けのデータセンターをフィンランドに新設する」ことも明らかにした。

キーになるデバイスとサービスの関係

 両トップの発言の中で筆者が注目したのは、「クラウドサービスとの連携」と「Microsoftの変革」である。今回の動きとこの2つの言葉を掛け合わせると、Microsoftが今スローガンとして掲げている「デバイス&サービス会社への変革」が浮かび上がってくる。ちなみに、サービスとはクラウドサービスのことである。

 このスローガンについてはすでに多くの解説がなされているが、今回の動きや日本マイクロソフトが9月2日に発表したSurfaceの法人市場向け販売などを受けて、同社が9月5日に都内ホテルで開いたパートナー向けイベントの講演で、樋口泰行社長が語っていたポイントを紹介しておこう。

 樋口氏によると、デバイス&サービス会社への変革とは、従来のソフトウェアに変えてデバイスとサービスを展開するのではなく、ソフトウェアを軸にしてフロントエンドにデバイス、バックエンドにサービスが広がっていくイメージだ。そこで最も重要なポイントは、ソフトウェアを軸にデバイスとサービスが分断することなくシームレスにつながっていることである。

 「シームレスにつながることで、お客様には多様なデバイスからオンプレミスベースのソフトウェア、クラウドサービスをさまざまな形で組み合わせて提供でき、それらを用途に応じて選んでいただける。これがマイクロソフトならではのデバイス&サービス事業だ」(樋口氏)

 改めて、なぜMicrosoftはスマートフォンやタブレット端末といったデバイス事業に打って出たのか。それはデバイスのパラダイムシフトもさることながら、スマートフォンやタブレット端末が従来のPCにも増してクラウドサービスとより密接に連携もしくは一体化するデバイスだと判断したからではないか。

 今後、Microsoftがバックエンドの領域だけで事業を進めるのならば、デバイスに執着しないでもいいだろう。しかし、それはこれまでWindowsとOfficeで多くのユーザーのバックエンドもフロントエンドも支えてきた同社にとってありえない話だ。

 デバイスで存在感を持てなければクラウドサービスも広がらない。逆に、クラウドサービスを大きく広げるためにはデバイスでの存在感が不可欠になる。そういう時代に突入したのだ。

 Microsoftにとってやっかいなのは、同社より先にGoogleやAppleがそのことを認識していたと見受けられることだ。特に企業向けでは、Googleとの一騎打ちになる可能性がある。ただ、MicrosoftにはWindowsとOfficeを中心とした企業顧客ベースで圧倒的な強みがある。それをどう生かすか。もしくは生かせないまま衰退の途につくか。今回の事業買収は、その分水嶺ではないだろうか。

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