およそ1か月前に三重県で発生した大型風車の破損・落下事故に関して、事業者のシーテックが原因の調査結果を発表した。それによると、強風時に風車の羽根の角度を変えて運転を停止するための機械部品の一部に材質の問題があったことが判明した。シーテックは「不適切な材質で製造されていた」と指摘し、メーカーの日本製鋼所も認めた。事故機と同じ型の部品を搭載した風力発電機に対しては早急に交換を実施する。
事故の状況を簡単に振り返っておくと、三重県の津市にある風力発電所「ウインドパーク笠取」の19基ある大型風車のうち最も東側に建てられた19号機で、4月7日(日)の夕方16時37分〜16時55分の間に風車部分が丸ごと地上に落下した(図1)。現地では前日から低気圧の影響により風速20メートル/秒を超える強風が吹いていて、事故が起こる2時間ほど前には発電を自動的に停止する25メートル/秒に達していた。
風力発電設備は大きく分けて3つの構成要素で作られている。羽根の部分は「ブレード」と呼ばれ、その軸に「発電機」を接続し、さらに後部には電力を変換する装置などを収容した「ナセル」がある(図2)。今回の事故原因になった機械部品は、ブレードの中にあって羽根の角度を変えるために使われる。
風力発電には通常5メートル/秒以上の平均風速が必要だが、風が強すぎると風車が回転し過ぎて事故の原因になるため、限度を超えると自動的に停止するように設計されている。ウインドパーク笠取の場合は25メートル/秒で自動停止するようになっていた。
この停止状態は風車の角度を変えることで実現する。運転時には羽根の角度を風の方向に垂直にすることで回転させているが、角度を水平にすると風が吹いても受け流して風車は回転しない。この状態を「フェザリング」と呼ぶ(図3)。当日は事故が起こる4時間ほど前に電気系統の故障もあって、3枚のブレードともに水平状態の角度になっていたことが運転記録で確認されている。
さらに16時少し前には瞬間風速が40メートル/秒を超えたことから、ブレードを風下側に移動させる「ストームモード」への移行が自動的に始まった。発電設備全体をタワーを軸にして180度回転させることにより、ブレードが強風を受けても安定した状態を維持することができる(図4)。
ところがストームモードへの移行中にブレードの1枚の角度が変わって、風車が回転を始めてしまった。その後に残る2枚のブレードの角度も変化して、3枚すべてが強い風を受けて過剰な回転が始まる。事故の直前には回転数が通常時の最大値(定格回転数)の3倍を記録し、破損・落下につながったと推定されている。
問題は、なぜストームモードへの移行中にブレードの角度が変化してしまったかである。シーテックの調査結果では、ブレードの角度を制御する「ピッチモーター」の中のブレーキを構成する部品に摩耗が見つかった。この摩耗による粉がブレーキの保持力を低下させ、適正な角度を維持できなくなり、風を受ける角度に変わってしまった。
風車が過剰に回転し始めて、ブレードが大きく変形してタワーに接触。その衝撃で風車をタワーに接合していたボルトが破壊されてしまい、ブレード・発電機・ナセルで構成する発電設備が丸ごと落下した(図5)。シーテックはシミュレーションによっても同様の現象を確認したという。
原因分析の中で注目すべきは、ピッチモーターのブレーキ部分を構成する「スプライン」と呼ぶ部品が「不適切な材質で製造された」と結論づけている点だ。ウインドパーク笠取に設置した19基の発電設備には日本製鋼所の同じ製品が使われている。同様の事故は残る18基でも起こる可能性があったわけだ。シーテックは18基のピッチモーターのブレーキ部分を早急に点検して、耐摩耗性の低いものがあれば交換する。
この三重県の事故より約1か月前の3月12日には、京都府でも大型風車の落下事故が起きている。日本海に面した与謝郡伊根町にある「太鼓山風力発電所」で発生したもので、事業者は京都府文化環境部である。事故から1か月を経過しても公式な発表がなく、ようやく4月25日に事故の概況を公表し、原因を調査中であることを明らかにした。
風車のメーカーはオランダのLagerwey社で、国内の販売はJFEグループが担当してきた。いまのところJFEグループからは事故に関する発表はない。同じメーカーの風車は国内でも数多く稼働中であり、迅速な原因究明と情報公開が求められる。
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