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「日本品質」に期待を寄せる現地企業 日立が示すインド進出の大戦略とは?

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 調査会社のIDC Japanによると、2013年の国内IT市場は「横ばい」となる見込みだ。ハードウェア市場の成長鈍化とスマートフォンブームの一巡に加え、いわゆるアベノミクスによる経済効果がIT市場に波及するには今少し時間を要することなどが理由として挙げられている。

 それに対し、高い成長が期待されているのはインドのIT市場だ。同国のIT専門調査会社であるZINNOV社は、2013年から2015年にかけての市場成長率について、実に18%と予測している。

 ITベンダーとして国内大手の一角を占める日立製作所(日立)も、インド市場に熱い視線を向ける一社だ。実は同社とインドの関係は古く、1930年代にさかのぼる。1933年に扇風機を輸出したことを端緒に、1935年にはムンバイに事業所を開設。1950年代には蒸気機関車や水力発電用のプラントを納入するなどし、同国のインフラ事業にも深く関わってきた。今では、日立グループおよび関連企業を含めた年間売上はおよそ1000億円にのぼり、従業員も7500人を数えるという。

 ITという点で見た場合、日立がインドに進出したのは1997年である。当時は新たなマーケットの創出というよりも、ソフトウェア開発のオフショア拠点という位置づけであった。同国では準大手に位置づけられるiGATE、Symphony Teleca、L&T Infotech(L&TI)といったベンダーに対しソフトウェア製品の開発やテストを委託し、月間300人程度は稼働しているという。

 「オフショアの規模が拡大するにつれ、課題も浮き彫りになりました」とHitachi India Pvt. Ltd.(HIL)のソフトウェアグループでシニアGMを務める石井武夫氏は振り返る。石井氏は「日本流の高度な品質管理が特殊なのかもしれませんが」と前置きしつつ「品質を上げようというアプローチではなく、定められたプロセスをこなせばいいというスタンス。日本側が期待していた質や納期という点で、ギャップがありました」と指摘する。

 例えば、開発中のソフトウェアでコードの記述ミスが発見されたとする。日本のエンジニアであれば、同じミスが他の場所でも発生していないかチェックするところだが、オフショアのエンジニアが自発的にそのような作業をすることはまずない。

hil_ishii.jpgHitachi IndiaのソフトウェアグループでシニアGMを務める石井武夫氏。石井氏はインドにおけるソフトウェアビジネスの責任者である

 しかもこういったトラブルはプロジェクトの終盤で発覚する。進ちょくのレビュー段階では「順調です」というレポートになるからだ。自然と、フタを空けてみてびっくりという事態になってしまう。

 石井氏によると、インドのスタッフの労働モラルは高いという。しかし「インドのIT市場はオフショアやBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)で発展したという背景がありますから、自分自身の製品、サービスであるという意識はやや希薄なのかもしれませんね」と石井氏は話す。

 また成長市場にありがちな課題として、雇用の流動性の高さも挙げられる。日本流の「モノづくり教育」では、まず1人を教育しその人間がさらに下を育てる、という流れが一般的だが、インドでは育てた人材が誰にもスキルを継承することなく転職してしまう。カルチャーの違いと言えばそれまでだが「毎回、人材をゼロから育てるというのは厳しい環境ですね」と石井氏は話す。

 このような問題を解消するため、日立では日本人エンジニアがインドに常駐する体制を作った。2006年のことだ。「このプロセスは全体のなかでどのような意味を持つのか」を徹底して理解してもらうようコミュニケーションしました」と石井氏は話す。

 このようにしてオフショア開発の体制は向上したというが、悪い面も出てきたという。現地に日立のエンジニアがいるため、日本のスタッフが、そのエンジニアを介してコミュニケーションしようとするケースが増えてしまった。なまじ言葉や文化が共通だと、オフショア先に対する要求仕様書もなおざりになりがちだ。「日本のスタッフと現地のスタッフがきちんとコミュニケーションしなければなりません。幸いなことにオフショア拠点のスタッフの質も上がりましたから、段階的に日本人スタッフを引き上げているところです」(石井氏)

インフラとITを融合したビッグデータビジネスの創出で市場進出

 日立がインドにおいて、オフショアだけでなくビジネスを創出するための取り組みを開始したのは2011年のことだ。

 なぜインドなのか? 冒頭述べたような高い市場成長率もさることながら、同国が安定した議会制民主主義国家であり政治的・法的な透明度が高いという点を石井氏は挙げる。政教分離も果たされている。

 ITという点で見れば、エンジニアが豊富、かつ安価である。またインドの大手SIerの国内外事業費率は実に1:9(国内:海外)となっている。インドベンダー自身がグローバル志向であるため、中東・ヨーロッパに進出する足掛かりとしても期待できる。

 しかし、有利な条件ばかりではない。例えばインドのIT市場は、TCS(TATA Consultancy Services)やInfosys、WIPROといったいわゆる「インディアスリー」が牛耳っており「普通に戦ったのでは厳しい」と石井氏は読む。

 改めて確認すると、インディアスリーをはじめとする同国のIT企業は、グローバルアウトソーシングを事業の中心として成長してきた。端的にいえばアウトソーシング依存のビジネスモデルである。

 ここから先、インディアスリーが事業成長するには、必然的に脱アウトソーシング依存のビジネスモデルを構築していくことになる。日本ではよく「製品単品売りからソリューションへ」と言われるが、インドでは「アウトソーシングからソリューションへ」ということになる。

 しかし、インディアスリーにはソリューションに必要な「高品質のITプロダクト」が欠けている。ローカルに最適化された業務アプリケーションやSI能力をインディアスリーの強みとして認め、彼らに日立のミドルウェアやサーバ、ストレージを提供することで支援する。そうして完成したエンドトゥーエンドの垂直統合ソリューションをもって、インド市場に浸透していく。これが日立の「インド進出戦略」である。

hil.jpgインドベンダーの脱アウトソーシング依存を支援する形で市場進出を狙う

 現時点では社名は明らかにされなかったが、既にインドの大手複数社との間で、共同のR&Dを含むパートナーシップを結んでいるという。

 インド企業の脱アウトソーシング依存を支援する形で市場に進出する日立だが、石井氏は既にその先を見据えているようだ。

 「どこのリージョンであれ、IT市場は結局のところレッドオーシャン。インドにも欧米のメガベンダーが進出しており、彼らと競争しなければなりません。しかし我々はITだけでなく、インフラビジネスも創出できます。インドはインフラ整備が立ち遅れていますが、それだけに巨額の投資をしています。電力や交通といったインフラにITを融合したビジネス、つまりビッグデータビジネスを担えるのは日立だけです」(石井氏)

「日本品質」に期待を寄せるインド企業たち

 既に述べたとおり日立とインドの関係は80年に渡る。それだけに「日立だけが短期的に儲かるビジネスをするつもりはありません」と石井氏は話す。

 「インド企業とのエコシステムを築かなければ、長期的な成功はありません。彼らの課題はアウトソーシング依存から脱却するビジネスモデルを持たないことですが、日立とのパートナーシップでより上流工程を担えるようになるでしょう。その結果、内需が拡大しますし、IBMやHPと肩を並べるグローバルなITベンダーにもなり得ます」(石井氏)

 石井氏によると、インド企業の幹部は日本の社会システムや公共インフラ、サービスに対し非常に高い評価をしており、日立を通じてそのノウハウを得られることに期待を寄せているという。「我々はビジネスを通じ、インドに社会貢献するのです。インフラとITでインドをより良い国にしていきます」(石井氏)

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