企業の情報共有はソーシャルが主軸に
IDC Japanが先頃、国内のコラボレーティブ/コンテンツアプリケーション市場の売り上げ規模について、2012年の実績と2013年から2017年までの予測を発表した。それによると、2012年の同市場規模は前年比4.4%増の1031億8200万円と推定。また、2017年までは年間平均成長率4.9%の伸びをみせ、同年には1311億4600円の規模になると予測している。
IDCによると、同市場は、eメールアプリケーションや会議アプリケーションなどの「コラボレーティブアプリケーション市場」と、コンテンツ管理ソフトウェアやエンタープライズポータルなどの「コンテンツアプリケーション市場」からなる。
そのうち、コラボレーティブアプリケーション市場の2012年の売り上げ規模は前年比2.5%増の591億800万円と推定。そして同市場の動きを次のように分析している。
「コラボレーティブアプリケーション市場は、電子メールやグループウェアの飽和、およびクラウドへの移行により成長が緩やかな市場と、会議アプリケーションやエンタープライズソーシャルソフトウェアなどの成長率の高い市場に二極化している」
ここでIDCがいうエンタープライズソーシャルソフトウェア、あるいは企業内ソーシャルネットワークといわれるツールを、本稿では「エンタープライズソーシャル」と呼ぶことにする。IDCの分析を踏まえると、今後のコラボレーティブアプリケーション市場は、電子メールやグループウェアに代わってエンタープライズソーシャルが主軸になっていくと見ることができる。
既存の市場セグメントで見ると、おそらくそうした明暗が今後もっとはっきりしてくるだろう。ただ、これからこの分野で起きようとしているのは、そうした既存の市場セグメントを超越した、もっとダイナミックな動きなのではなかろうか。
それはすなわち、エンタープライズソーシャルが他のさまざまなアプリケーションと「融合」していくことだと筆者は考える。既にその動きは大手ベンダーの製品戦略に表れている。最も顕著なのは、グループウェアに代表される従来のコラボレーティブアプリケーションとの関係だ。例を幾つか挙げてみよう。
さまざまなアプリケーションと融合へ
グループウェアといえば、まず頭に思い浮かぶのが「Notes」だ。Notesを展開するIBMは今春、最新版にソーシャルとの連携機能を追加した。一方で同社は昨年来、エンタープライズソーシャル分野にも力を入れており、「エンタープライズソーシャルウェア」と呼ぶソリューション群に関連ツールを取り込み、さらに各種業務システムやクラウド環境、モバイル機器との連携を図っている。Notesもこうした動きに合わせた形で、エンタープライズソーシャルとの融合を図ろうというのが同社の戦略だ。
コラボレーティブアプリケーション市場においてIBMと長年にわたって激しい戦いを繰り広げてきたマイクロソフトも昨年来、エンタープライズソーシャル分野に注力している。その要となるのが、コラボレーションツール「SharePoint」とエンタープライズソーシャル「Yammer」との融合だ。これをもとに、将来的にはオフィスツールとして今も圧倒的なシェアを誇る「Office」とエンタープライズソーシャルを融合させようというのが同社の戦略だ。
さらに、エンタープライズソーシャルの影響力はコラボレーティブアプリケーション分野だけにとどまらない。
オラクルが提供するタレントマネジメント「Taleo」には、社内外のソーシャルネットワークとの連携機能が装備されている。タレントマネジメントとエンタープライズソーシャルが連携することで何ができるのか。例えば、個々の従業員の社内における人間関係(ソーシャルグラフ)を可視化することができるので、適切な人材をそろえてプロジェクトをすぐに立ち上げたい、といったときに有効だ。
一方、SAPは業務アプリケーションのコミュニケーション基盤としてエンタープライズソーシャルを位置付け、各種業務アプリケーションにソーシャルツールを組み込みつつある。すでにタレントマネジメントなどの人事管理や顧客情報管理(CRM)、需給業務計画(S&OP)といった業務アプリケーションに適用しているという。そこには、ソーシャルはそれぞれの業務プロセスに深く入り込んでこそビジネス価値がある、との同社の信念がある。このSAPの取り組みを見れば、エンタープライズソーシャルはプロジェクトマネジメントとの連携・融合も図られそうだ。
こうしてみると、エンタープライズソーシャルはグループウェアにとどまらず、タレントマネジメントやプロジェクトマネジメントをはじめ、さまざまなアプリケーションと連携・融合しながら進化していく姿が浮かび上がってくる。この“変幻自在ぶり”がエンタープライズソーシャルの正体ではなかろうか。
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