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YouTubeにファン970万人、空港には出待ちも……田舎の中学生が“YouTubeセレブ”になるまで

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 7年前の2006年——中学生のライアン・ヒガさんはハワイの田舎町で暇を持て余していた。せめてもの気晴らしに動画でも撮ってみよう。そんな軽い気持ちで始めたのがYouTubeでの活動だった。インターネットやビデオカメラのことはよく知らなかったが、ほかにやることがなかったのだ。

 今年23歳になったヒガさんはあの頃想像もしなかった未来にいる。彼のYouTubeチャンネル「nigahiga」の登録者数は970万人で堂々の世界第7位。YouTubeの動画を通じて得た収益で生計を立て、3人のスタッフを雇っている。彼のTwitterアカウント「@TheRealRyanHiga」のフォロワーは105万人だ。

画像ライアン・ヒガさん。日系人である彼は「和食がすごい好き」なんだとか。英語版Wikipedia「YouTubeセレブリスト」にも載っている

 7月にYouTubeクリエイター向けの交流イベントに参加するため、スタッフとともに初来日した。到着したのは深夜だったが、空港にはファンが数人待っていたという。ヒガさんの人気は英語圏だけでなく世界に広がっている。一体この7年に何が起きたのだろう。“YouTubeセレブ”の素顔を直撃した。

1日16時間 アイデアを考え続けるストイックな日々

 ヒガさんはYouTubeにコメディ動画やビデオブログを投稿している。忍者やギャングスターを演じるHow to beシリーズ、iPodやGoogle Glassなどのガジェットになりきる人間◯◯シリーズ、ファンからの要望に応えるDear Ryanシリーズなどが有名だ。初期は口パクのパロディ動画が中心だったが“寸劇”をやるようになってから人気が出た。

 例えば2007年の「How to be Ninja」は「フォー!」と奇声を上げながらピカチュウっぽいぬいぐるみに飛び蹴りしたり、ボールに頭突きしたりとテンション高めな内容。これって忍者というよりカンフーでは……という突っ込みはさておき、現在までに3600万回以上再生されている。すごすぎる。

 同じシリーズの「How to be a Youtube Celebrity」は11年に投稿され、再生回数は1100万回以上。内容のバカっぽさ(※ほめ言葉です)はNinjaとそれほど変わらないが、一部ナレーションが付いていたり、演技が自然になっていたりと全体的なクオリティーは数年で格段に上がっている。

 面白動画だけではない。「Draw My Life」は自身の半生をイラストで振り返ったもの。幼いころいじめにあっていたことなどを明かし、そんな経験から人を笑わせたいと思った——というストーリーを語っている。東日本大震災の際には義援金を募るビデオ「Honk For Japan!」を公開し900万回再生された。

 YouTubeにはクリエイター向けのパートナープログラムがあり、参加すると動画ページに表示される広告を通じて収益を得ることができる。もちろんヒガさんもこのプログラムを通じて稼いでいる。何か別の仕事と掛け持ちしているわけではなく、YouTubeでの活動がフルタイムの仕事だ。

 動画のアイデアは日々の生活から生まれるという。自室に16時間こもりひたすらアイデアを書き出す。それを1週間に4〜5日は繰り返しているのだそうだ。残りの時間は撮影や動画の編集で消えていく。まさにYouTubeに全力投球。かなりストイックな毎日だ。それでも「ずっと楽しんでやってきたから今でも自分をプロだとは思っていない」と語るヒガさん。インターネットや動画に関して素人だった頃から試行錯誤を重ね、学んでいく過程そのものが楽しく、だからこそ続けてこられたという。

「よもや他人が見てくれるなんて思いもしなかった」

 中学生の頃、友人や家族のためにVHSのカムコーダで撮っていたのは、映画「呪怨」のパロディなど些細なものだった。しかしテープをいちいち手渡すのが面倒くさい。だからYouTubeに目をつけたという。ヒガさんにとってYouTubeはファイル転送のデバイスに過ぎず「よもや他人が見てくれるなんて思いもしなかった」。

 根っから人を楽しませることが好きだというヒガさんにとってYouTubeでの活動は性に合っていたのかもしれない。学校ではシャイな方で人前でうまく話せなかったり怖じ気づいたりしていたが、動画がたくさんの人に見られることを怖いと思ったことはない。自分がこだわって作ったモノを知ってもらうことは「何も問題なかった」と振り返る。

画像「人を楽しませることが好き。ほかのことはどうでもいいんです」

 ご存知の通り、YouTubeは巨大なプラットフォームだ。1分あたり約100時間分の動画がアップロードされている。そんな中から自分の作品を見つけてもらうのは至難の業だ。当然ながらほとんどは注目されることなく埋もれてしまう。ヒガさんの場合、動画を見つけてもらう工夫を特にしたわけではなく、口コミで人気が広がったという。

 「人によっては自分で売り込んでマーケティングしてる人もいるけど、私はそうではなくただ好きなコンテンツを出して共感してもらえれば良しという感じだった。YouTube側にフィーチャーされて人気が出る人もいるけどそれもなかった(笑)。だから本当にラッキーだったんだと思うんです」

 YouTubeだけで食べていくことを決意したのは大学2年の頃だ。高校を卒業する頃にはすでに手応えを感じていたが、両親に「YouTubeを仕事にする」とは言い出せず、いったんはラスベガスの大学に進学した。専攻は放射線医学。「でも全然興味が持てなくて……」。結局勉強もYouTubeでの活動もはかどらなくなり、学校は辞めてしまった。

 「両親はショックを受けてがっかりした様子だった。でもYouTubeには将来性があると説得して、自分が100%やりたいことなんだと知ってもらったんです」。現在は友人3人を雇って動画を制作している。「自分の声や動画についてはうるさい」というヒガさんのこだわりを理解して、支えてくれるメンバーで、今回も一緒に来日した。

 今後はテレビや映画の世界に進出するという野望を抱いている。目標は単なる監督や俳優ではなく、すべての役割を自分でこなせるようなアーティストだ。もちろんYouTubeでの活動も続けていく。「コンテンツを発表する場はこれからもYouTubeでありたい。YouTubeは出発点であり私にすべてを与えてくれた場所だから」——。

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