5月16日、雲南省の昆明でデモが起きた。昆明の郊外「安寧」での化学工場建設反対のデモだ。
昆明の中心に位置する繁華街の北端「正義坊」には3000人もの市民が集まった。「正義坊」の先には大通り「人民路」を挟んで「五華山」に「雲南省政府」がそびえ立つ。しかし正義坊から雲南省政府への道は人民路の前の警察官の分厚すぎる壁があり、「五華山」には市民は声をあげるしかなかった。「正義坊に正義なし、安寧に安寧なし」と揶揄された。
またネット検閲もデモ伝達をある程度塞いだ。スマートフォンでデモの写真を撮り、マイクロブログ「微博」(Weibo)で送る人が続々と出たが、その書き込みはすぐに消された。ニュースメディアはその日は一切報じなかったが、翌日時間をおいて報じられて、そしてまた消された。未確認ながら「現場での電話も封じられた」という声も上がった(日ごろから中国のネット管理に不満を持っている人が大げさに叫んだのかもしれない)。
それでも多くのデモ現場の写真が流出した。筆者自身、昆明は縁のある土地であり、多くの知人がいることから、デモは逐一様々な連絡方法で伝わった。微博も活躍したが、それ以上に中でも活躍したのが「微信」、英語名で「WeChat」と呼ばれるメッセンジャーアプリだった。より詳しく書くと、1対1ではなく微信のグループチャット機能「朋友圏」のサービスである。
多くの昆明の知人から「正義坊で散歩なう!(散歩はデモ時のデモの代替用語)」とメッセージと微信の画像が飛んできた。掲示板でもブログでも百科サイトでも、転載慣れしているため、現場にいるかいないかは問わず、とにかく多くの昆明人の知り合いからデモ情報が写真付きで送られてきた。
「微信」はLINEと同種のメッセンジャーアプリ。中国向けのLINE(「LIANWO(連我)」は最近NGワード入力チェック機能が搭載されたことで話題になったが、その機能はおそらくサーバでなくクライアントアプリ側でチェックする程度の簡易なものと言われている。中国人はローカライズされた中国製サービスばかりを利用するようになったため、Whatsappやカカオトークを利用しようとはしない。同様の理由でLINEの利用者もそう多くない。少なくとも昆明のデモでは活躍していなかった。
一方微信に関しては、リリース元の騰訊(Tencent)に微信だけでなく、「騰訊微博」やチャットソフト「QQ」など同社のWeb 2.0的サービスで共通に使うフィルタリングサーバがあるという話があるものの、その詳細は謎に包まれている。
微信は無料で音声通話やボイスメッセージングができることがウケて中国で急速に普及しており、そのユーザー数は今月、4億に達したという。ご存じのとおり、中国には漢字こそ同じだが北京語に近い「普通語(標準語)」のほか、上海語、広東語、四川語、それにチベット語、ウイグル語など無数の言語がある。音声でのNGワードのフィルタリングを全方言に対応することは難しい。実際Tom-Skype(中国企業Tomと提携した中国版Skype)においても、送受信された文字列でひっかかった場合に音声やファイルを傍受するというプロセスがあることが判明している。
ともなれば音声(ましてや中国内陸の西南端の雲南省である)ならばマークされる危険は少なさそうだが、実際には人々は国産サービスでテキストと写真を送るばかり。外国のサービスでかつ音声メッセージングを利用すれば情報の広がりを阻止することは難しそうだが、新しいサービスであるメッセンジャーアプリが登場しても、従来と同様の「国産サービスの利用」と「テキスト転載」が多いため、容易に要注意人物の洗い出しができそうだ。
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