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外資系のIT機器や医療機器のメーカーに、ヘルプデスクや教育などのサポート機能を提供する日本サード・パーティ(JTP)。同社の森和昭代表取締役会長兼社長は、「新しいサービスビジネスを展開する」とし、ソーシャルマーケティング関連など新規ビジネスに取り組む方針を明かす。伸び悩んでいる業績を成長軌道にも乗せる。
労働集約から知識集約へ
1987年創業のJTPは、海外メーカーが日本市場に参入するにあたり、彼らに代わってユーザーに教育やヘルプデスク、メンテナンスなどを提供する事業を展開している。日本市場で販売する商品の検査や、商品への組み込み作業も請け負うなど、「黒子として動いている」(事業推進本部担当の為田光昭取締役)。IT分野では現在、HPやCisco Systems、EMC、NetApp、VMwareなど有力な米ITベンダーと取引する。
こうした外資系メーカーにヘルプデスクなどのサポート機能を売り込む際の競合は、中国やインドの企業になる。多くは国際入札になり、「彼らと戦うにはコストを下げる必要もある」(為田取締役)。同社によると、インド企業は日本企業の5分の1、中国企業は3分の1から2分の1の料金を提示する。そこで、コストを少しでも抑えるため、JTPではその都度発生する作業への対価を支払ってもらうような労働集約型のビジネスになっている。
それでも、「名だたる海外メーカーと取引している」(為田取締役)。コストで負けても、サポートの実績や品質などが評価されているからだろう。だが、売上高は2008年度の約60億円から2012年度には約46億円へと下がり続けている。国内の同業者との価格競争に加えて、サポート事業を内製化する外資系メーカーが出てきたことなどが原因だ。
為田取締役は「事業モデルはしっかりしており、困ることはない。だが、このビジネスだけでは大きな展開ができなくなっている」とし、新規ビジネスを切りひらくことにした。その1つが、2007年から開発に取り組み始めた、技術者の技術スキルを可視化するITスキル検定「GAIT」だ。「これまで培ってきたノウハウを技術的な視点から検定問題にまとめ上げた」(同)もので、2012年10月に本格的な運用を開始した。
GAITは技術者のIT技術力を測るもの。英語試験「TOEIC」のように990満点で、例えば500点ならこのレベルの技術力なのでこの現場に使えるといった技術者の素養をカテゴリごとに検定する。KDDIや伊藤忠テクノソリューションズなどが採用しており、受験者はのべ1万人になるという。2015年度にのべ300万人の受験者の獲得を目指す一方、世界1000万人の技術者に問題を配信するクラウド環境を構築する。
ソーシャルメディア関連事業にも注力
GAITの次に立ち上げた新規ビジネスは、ソーシャルマーケティング関連だ。米Sun Microsystems創業者のスコット・マクネリ氏らが創設した米Wayinが開発したTwitterマイクロサイトサービス「Wayin Hub」の国内販売を今年6月から開始した。Twitter上のツイートや画像をリアルタイムに表示するサービスを作成するもので、消費者の投稿をコンテンツの中心にするWebサイトに仕立てるツールだという。
同サービスはクラウド環境で提供し、アップデートが2週間に1回と頻度が多い。そのため、米国本社にJTP社員1人を常駐させた。「米国の利用動向をウオッチしたり、ローカライズの作業を担わせたりもする」(Wayin事業を担当する森豊執行役員)。
森執行役員によると、Webコンサルティグ会社などのWayin Hubに対する反応は「そんなものは手組みで作れる」と「ありそうでないサービス」に分かれる。興味を持つ企業に対して、販売パートナーと組んで売り込みを始めている。2013年度に10社のユーザーを獲得する。
クラウドサービス事業の立ち上げは、このほかにもある。為田取締役によると、目下のところ医療系システムや運用自動化ツールなどを検討しており、早ければ年内にも提供開始するサービスがあるという。IT機器や医療機器と同じように、海外のクラウドサービス会社の日本市場参入を支援するものの、異なるのは知識集約への転換につながること。「今はその種まき中で、来期から成果が出てくる」(為田取締役)。こうした黒子ではないビジネスを加えることで、2017年度に売り上げ150億円にする中期経営計画を作成した。
一期一会
2013年6月、JTPの最高経営顧問に元Sunのマクネリ氏が就いた。JTPによると、同氏が日本企業の顧問に就任するのは初めてだという。背景には、森会長兼社長と20年以上の付き合いがある。Sunが日本市場に参入する折、CPUボードの修理業務を請け負うところから関係が始まった。
その後、Sunの成長とともに、JTPが提供するサポート機能も増え、業績が拡大していったという経緯がある。Wayinと販売代理店契約を結んだのもマクネリ氏との関係があった。さらに、同サービスの市場開拓にあたっては、日本法人であるサン・マイクロシステムズの出身者が経営する企業の支援もある。今年6月には、サンの常務だった長谷川将氏が代表取締役副社長に就くなど、サン関係者との太いパイプが今も生きている。
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