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タブレットで変わる、学びのカタチ(3)

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 前回前々回と続いて、幼児〜低学年向けタブレットを取り上げた。今回はちょっと年齢が上がって、高校での取り組みをご紹介する。

 2年前、スマートフォンを使った教育に取り組むとして、半導体大手のクアルコムと通信制高校のルネサンス高校の共同プロジェクトの事例を取り上げた。

 ルネサンス高校は、現在3400人の在校生を抱える、通信制高校の大手である。生徒数からすれば、スーパーマンモス校と言っていい。7年前に起業(同校は内閣府より「教育特区」として認可された株式会社運営である)したときは、PCを使っての通信教育であったが、これだと机に座って勉強する形になる。

 6年前に携帯電話を使った学習を始めたところ、保護者からは猛烈な反対があったという。つまり保護者も子どもたちに、「勉強する形」を求めていたわけである。だがさまざまな事情から通信制高校に通う子どもたちは、常に「勉強する形」が作れるわけではない。いつでもどこでも学べて、成果が出ることが重要だ。

 子どもたちは、財布は忘れてもスマホは忘れないという。常に持ち歩くものを使うことで、勉強に対する心理的抵抗を和らげる効果もある。

 携帯電話からスマートフォンへの転換を図って2年、現在はおよそ90%ぐらいの生徒にスマートフォンの配布が完了している。今年からはこの取り組みがグレードアップし、タブレットによる教育に取り組む。最初はまだ数百台規模だが、生徒達の反応を見ながら導入を進めてゆく。

 携帯からスマホに変わって大きく進化した点は、動画教材が使えるようになったことである。ルネサンス高校では、自校の先生と生徒が出演する教材ビデオを制作し、学習に利用してきた。教材は、HTMLに文章と動画を張り込んだシンプルなものだ。

 スマホの問題点は、画面サイズである。動画の教材を表示させると、問題文や解説文が見えなくなる。従って生徒は、動画教材では画面を上に下にスクロールさせる必要があった。

 それがタブレットサイズになることで、動画と文章が同時に表示されることで、はるかに使いやすくなった。実際にいくつかの教材を見せていただいたが、課題と同じ画面内に動画の実験が表示されるなど、確かにスマホよりは7インチサイズで見た方がわかりやすい。

photoテキストと動画が同時に表示され、PCでの学習とほぼ同じスタイルを実現

 従来このような教材はPC向けに作られてきたが、携帯では使うことができなかった。それがスマホ、タブレットという流れの中で、徐々にまた利用できるようになってきた。PCはノート型でもなかなか高価で、重量もそれなりにある。一方タブレットは、PCとスマホの良さを兼ね備えており、コスト的にも携帯性も優れている。

学ぶ楽しみが得られる

 もう一つのメリットは、電子書籍がそのまま教材として使える点だ。ルネサンス高校を運営するルネサンス・アカデミーは、ナショナルジオグラフィックの日本語WEBサイトを運営している。その関係から、教材としてナショジオの子ども向け書籍の電子版を教材として配布することができた。生徒は分からない単語をその場で辞書機能を使って調べたり、読み上げ機能を使ってネイティブの発音を聞きながら、英語の学習を行なう。

photoナショナルジオグラフィックの子ども向け書籍。これの電子版を教材として使用

 最大のポイントは、「教材が面白い」ことだ。皆さんも、そもそも文章の内容に興味のないReaderの教科書にうんざりした記憶はないだろうか。一方ナショジオの内容であれば、科学的な興味・関心を引く内容でもあり、取り組む意欲がまったく違ってくる。科学を英語で学ぶという、一石二鳥が狙える。

 現在は、単に電子書籍として配布するだけだが、ゆくゆくは最後に設問を付けるなど、より教材として充実を図るという。

 ルネサンス・アカデミーではナショジオの後援で、7月にネット参加による科学検定試験を実施した。同校の生徒も多数参加したはずである。科学の楽しさを伝えていけるような試験をやっていきたいと、同校校長の桃井隆良氏は抱負を語る。

 米Qualcommのリスティン・アトキンス氏は、米国でのタブレット学習の事例を紹介した。例えばハーバード大学では青少年教育教材として、ARを使って屋外で学ぶシステムを開発したという。例えば子どもたちが池にタブレットのカメラを向けると、アヒルが草を食べ、排泄物が沈殿してCO2が発生、といった、一連の食物連鎖サイクルをその場で学ぶことができる。

 これにより、教育と現実が繋がっていると実感でき、自ら学ぶという意欲が高まる。実際にこの取り組みでは、学力が19%上がったという。

 日本の教育現場では、いまだに紙の教科書へのこだわりが強い。それは、教科書はすでに完成しているものであり、先生の腕が発揮しやすい、という理由がある。

 一方IT教材はまだ開発段階であり、さまざまな実験プロジェクトはあるが、子どもたちへの投入へはまだまだ懐疑的である。実際に導入すれば、リスクもあきらかになるだろう。うまくそのリスクを回避しながら、学ぶことが楽しいと感じるようになれば、今学期、今学年の成績を一喜一憂するよりも、もっと長期的な財産となるはずだ。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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