連載「そのひとことを言う前に」
職場で感じるストレスの原因は、うまくコミュニケーションがとれないことによるものが多いようです。本連載では、伝え方や接し方、聴き方に至るまで職場でよくあるエピソードをもとに、仕事や物事がより円滑に進むようなコミュニケーションや考え方のヒントをご紹介します。言葉を受ける側の立場や気持ちを理解し、自分が発する言葉について見直してみてはいかがでしょう。
「新しい仕事をがんばって欲しい」「チャレンジすれば、もっとできるようになるはず」——。そんな期待を部下に抱く上司は多いはず。先日のコラムでは、部下に仕事を選ばせることでやる気を出してもらう方法を紹介しましたが、一般的には言葉で部下を叱咤激励することが多いと思います。
部下にかける言葉は人によって異なりますが、“発破をかける”という日本語もあるように、厳しい言葉で相手の危機感や劣等感を刺激して、相手のやる気を引き出そうとする人もいます。しかし、それは一歩間違えば相手の心を折ってしまうリスクがあるので注意が必要。知人の女性がそんなエピソードを教えてくれました。
育児休暇が終わり、仕事に復帰したAさん(女性)はちょうど新しく着任した上司に仕事の割り振りについて相談していました。もともと成績もよく、社内の評判もよかったこともあって、上司からの期待は高かったそうなのですが、その会話でAさんはとても傷ついたと言います。
上司: というわけで、Aさんにはこれだけの顧客と新たにX社を担当してもらいます。知っていると思うけど、X社は当社にとって最重要顧客のうちの1社だし、数字も大きくて、いろんな事を求められると思うけど、いい機会と思ってがんばって。
Aさん: X社ですか……。正直に言うと今担当するのは非常に厳しいですし、きちんと成績を上げる自信がありません。他の方に担当を振っていただけないでしょうか。
上司:それはなんで?
Aさん: その顧客はヘビーな業務で残業が非常に多くなると聞いています。まだ子どもが小さいこのタイミングでは荷が重いです。ほかの顧客でがんばるので、どうにかできませんか……?
上司: え? 成長できるいいチャンスじゃん。家庭の状況なんて、みんないろいろあるもんだよ。僕も子ども2人もいるし。介護の問題を抱えている人もいる。
Aさん: それはそうですが……。
上司: あのね。正直Aさんがいない間、僕ら何も困らなかったの。だから重要な顧客を担当して「Aさんがいなかったら困る」と言われる人材になって欲しいと思ってるんだよね。分かる? それにさ……(と続く)
Aさん: えっ……。
抵抗する気力が失せたAさんは、その後押し切られるようにX社を担当しました。育児との両立が厳しく、忙しい日々を送る中で辛さに拍車をかけたのは、「自分がいなくても誰も困らない」という上司の言葉だったと言います。
企業は基本的に人が入れ替わっても、仕事が進むように調整するもの。「この人がやめてしまったので仕事が回らない」という事態になったら大変です。当然Aさんがいなくても仕事が進みますし、上司も悪気があったわけではなく「もっと頑張れ!」とエールを送ったつもりなのでしょう。
しかし「あなたがいなくても誰も困らない」という言葉は、相手の努力や成果を否定することになりかねません。Aさんは上司の“言葉通り”に「自分は不要な人材ではないか」と感じ、「このマネージャのもとではやっていけない」と異動願いを出したそうです。
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