アドビシステムズより6月に発売されたばかりのRAW現像ソフト「Adobe Photoshop Lightroom 5」。デジタル写真の現像補正に従来より定評のある同製品だが、新機能の追加や機能強化が施された新バージョンが気になっている人も多いことだろう。同社にてLightroomのマーケティングを担当する米アドビシステムズのディビット・アウヤン氏に、新機能の特徴や狙いを聞いた。
アウヤン氏: みなさんこの製品はよくご存じだと思いますが、よく聞かれることなので最初にPhotoshopとの違いをご説明いたしましょう。
Lightroomは写真家がよりよい作品を生み出すためのツールであり、操作のインタフェースや機能などは写真家の視点から考えられたものです。一方でPhotoshopも画像に関してはどんな加工もできるとてもパワフルなツールでありますが、プロフェッショナル・クリエーター向けの製品ですので、使い方を覚えるまでが大変です。その点、Lightroomは写真家がそれほど労力をかけずともよりよい作品を生み出せるようになっています。
高度な修復ブラシ
アウヤン氏: まず、「高度な修復ブラシ」を紹介しましょう。こちらは以前のバージョンでは「スポット修正ツール」と呼ばれていたものです。この機能を使えば、ゴミ取りやくすみの修正なども簡単にできます。ブラシのサイズはもちろんのこと、位置を正確に指定することでより自然な感じで修正することができます。
修正の際にディテールを損なわないよう、細かな調整もできます。よく、ポートレイトなどでシワやくすみを修正することがあるかと思いますが、あまりやり過ぎると不自然な感じに仕上がってしまいます。そんな時は、この「不透明度」を調整することにより、自然な感じで仕上げることができます。
Uprightテクノロジー
アウヤン氏: この機能は日本の方が好きそうなものです。傾いた画像をワンクリックで修正してくれるるものです。
「自動」というボタンは、Lightroomがバランスがとれるように自動的に傾きを補正してくれるものです。「水平方向」というのは、水平に対する補正のみで、「垂直方向」は垂直に対する補正をしてくれます。この「フル」というボタンはまた違っていて、三次元的に角度全体を補正します。水平、垂直を補正し、真正面に対して正対するような遠近法を適用します。ゆがみも出てくるのですが、それもちゃんと修正できていることが分かると思います。
また、傾きを修正しているとどうしても四隅などに白い余白の空間が出てしまいます。そうしたものも切り取ることができるオプション「切り抜きを制限」も用意されています。
あまり知られていなかったり使われていない機能なのですが、次に紹介する機能も便利です。「カラー」タブにある「色収差を除去」です。色収差によるにじみはコントラストの高い写真によく見られる現象ですが、これが起こってしまうと修正が難しかったりします。それを自動的に除去してくれます。
円形フィルター
アウヤン氏: 画像の重要な部分をいろいろな方法で強調するビネットという効果はこれまでもあったのですが、対象物が画面の真ん中にない場合は必ずしもよい効果を得ることができませんでした。
この新機能の特徴は、ビネットをどこにでも置くことができるというものです。形を変えて複数のビネットを置くこともできます。例えば、ビネットの周りのシャープネスを低くすると、少しボケたような感じを演出することができます。これでは効果不十分だと思った場合は、さらにビネットを重ねて効果をかけることもできます。
スマートプレビュー
アウヤン氏: 取り外した外付けHDDにオリジナルファイルがあるなど、オリジナルのファイルにアクセスできない状況でも編集作業ができる機能です。
PCのストレージ容量が限られている時でもRAWファイルを編集できるこの機能によって、アメリカでは写真家が写真に対して編集するという作業そのものが一変しました。これは世界中からも多くのコメントが寄せられています。
今からお見せしますが、このノートPCには写真のRAWファイルは保存されておらず、オリジナルのRAWファイルはこらちの外付HDDの中に保存されております。現在は画像の表示は「スマートプレビュー」となっています。これをノートPCに取り付けると、オリジナルのRAWファイルが参照される仕組みです。その際、表示が「元の写真」+「スマートプレビュー」に変わります。この状態だとRAWファイルを参照していますので解像度も上がり、ズームもさらに拡大して表示できるようになります。そして、この外付けHDDを取り付ける前にいろいろ編集していた作業が自動的に適用されます。
ワークフローそのものが変わるという、とても大きなフィーチャーなので、多くのユーザーに使っていただきたいと思います。スマートプレビューでは、もともとのRAWファイルの代わりに参照ファイルを作るのですが、オリジナルに比べて5%ほどのサイズにすることができます。なので、PCのドライブに十分な空きがない場合でも非常に役立ちます。
━━「Photoshop Elements 11 Editor」はMac App Storeにおいて販売されているのですが、Lightroomの販売もお考えでしょうか?
アウヤン氏: 考えてはいます。課題は、Lightroomはアップグレード版という販売形態が存在することです。アップグレード版の方がお安く入手できるのですが、Mac App Storeにはもともとアップグレードという考え方がありません。その辺りが難しいところです。ただ、この製品を幅広く訴求していく上で、新しいチャネルはないか常に検討しております。
━━Lightroomの市場規模を分かる範囲で教えてください。
アウヤン氏: 市場はとても大きいです(笑) Lightroomはバージョンを重ねるごとにユーザー数も伸びています。
━━市場に関してなんですが、地域ごと、例えば欧州、アジア、北米などといった地域ごとの違いといったものはあるのでしょうか?
アウヤン氏: 今バージョンのLightroomがCreaitive Cloudに含まれたことによって、従来よりも販売の出足は速くなると思います。
栃谷氏(アドビシステムズ 栃谷宗央氏): そのことについて補足説明させていただきます。日本と他の地域、ここではアメリカを例に挙げさせていただきますが、買い方の違いというか、そういった部分もあります。
例えば、アメリカではクーリングオフ制度が発達しているので、試しに買ってみてからその後使うかどうかを判断する方が多いのですが、日本では体験版を使ったりして吟味してから購入する方が多いので、販売の出足という意味ではアメリカの方が早いです。市場規模で言うと、単純に人口の比較だけでするとアメリカは日本の約2倍ですので、アメリカの数値の半分が達成できていればOKだと思います。まぁ、対人口の話の上だけで申し上げますと、日本の市場はまだまだ拡大が見込めると考えています。
━━公開されている必要スペックに補足する形で、CPUはこれくらいがいいとか、HDDよりSSDの方がよいといったものがあれば教えてください。
アウヤン氏: CPUパワーに関しては、あればあるだけ作業がはかどります。ストレージに関しても、HDDよりはSSDの方がよいパフォーマンを発揮できます。最近のノートPCはSSD搭載機種が増えてきているので、先ほどもご紹介しましたが、スマートプレビュー機能を使って、オリジナルのRAWファイルは外付けHDDなどに保存して運用する方法がオススメです。
Lightroomはユーザーから機能の改善や追加などの要望も多く、今後のバージョンもニーズに応じて機能を追加していくという話だ。ただ、ユーザーが求めるクオリティも高いので、それに十分応えられる形になったものから製品に反映させるというのも印象的だった。むろん、今回のLightroom 5もさまざまな新機能を盛り込んだ自信作とアウヤン氏は胸を張る。作品づくりに没頭したい人にとっては注目のソフトだ。
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