ウェアラブルデバイスは、スマートフォンやタブレットと同様に、米国の企業を中心にさまざまなデバイスがリリースされている。しかし、日本ならではのアイデアやデザインを活用したデバイスも登場している。それらの中には、テクノロジーとして非常に魅力的なものもある。
アイウェアブランド「JINS」で知られる、ジェイアイエヌが2014年5月に発表した、「JINS MEME」(ジンズ・ミーム)は、そんな日本発のメガネ型ウェアラブルデバイスだ。JINS MEMEの開発に携わる、ジェイアイエヌ経営企画室リーダー清水唯史氏、R&D室リーダー一戸晋氏に話を聞いた。
JINS MEMEとは?
JINS MEMEはメガネ型のウェアラブルデバイスだ。しかし、Google Glassのようなディスプレイやタッチパネルなどは装備されていない。一見すると、ちょっとツルの部分が大きくなっている、ごくオーソドックスなメガネに見える。
かけてみると、驚くほど軽い。Google Glassは右側にプロジェクターやプリズム、バッテリーなどが集中し、どうしても重みを感じてしまうが、JINS MEMEはバランスもよく、そもそもかけていることを忘れてしまうほど違和感がない。
JINS MEMEには加速度センサーももちろん備わっているが、最大の特徴は「眼電位センサー」だ。
眼電位とは、目の動きに合わせて生じる、周辺の皮膚から検出できる電位差で、これを測定することで、まばたき、目の動き、向きなどを記録できる。従来の技術では、測定するのに4点のセンサーが必要だったが、JINS MEMEでは、3点で測定できる新しい技術を活用している。
3点のセンサーは、鼻の両側と眉間という、メガネが普通に顔の皮膚に触れていておかしくない部分にある。これにより自然な、というより普通の眼鏡にしか見えないウェアラブルデバイスの開発に成功したそうだ。
デザインは、アウディのシングルフレームなどを手がけたことで知られる、プロダクトデザイナーの和田智氏。デザインにも巧妙な工夫が施されており、フレームの上半分と下半分に分かれる仕組みを採用している。
つまり、JINS MEMEのデバイスとしての機能をつるからフレームの上部に集中させ、フレームの下の部分を取り替えることができるようにし、顔の表情に最も影響が出るメガネのレンズの形に自由度を持たせたのだ。
このアイディアは非常に目から鱗であると同時に、アイウェア作りに携わるブランドだからこそのこだわりといえる。
自分の無意識な日常を観察し、活用する
JINS MEMEには、どのような役割が込められているのか。ユーザーに対して、またJINSというブランドに対してという側面で聞いた。
まず、ユーザーにとっての役割だ。
JINS MEMEはウェアラブルデバイスではあるが、ディスプレイや操作する要素などはなく、スマートフォンとBluetoothでペアリングし、あとは普通のメガネと同様に、かけていれば機能する。一戸氏は、スマートフォンでできることは、JINS MEMEの初期段階で排除したと言う。
「JINSというアイウェアブランドとして、顔の上に何かが乗るということが、どれだけかける人にとって大切なのか、ストレスなのか、ということと向き合ってきました。確かにカメラやディスプレイが搭載されたメガネは、はじめは面白いのですが、果たしてそれがアイウェアとして正しいかどうか、考えました。結果、徹底的にアイウェアとして普通で、自然であることを追究しました」(一戸氏)
つまり、JINS MEMEで取得したリアルタイムのデータを、スマートフォンのアプリで解析するという方法を採り、データの閲覧やアラートなどはスマートフォンが担う。目の動きと頭の動きを取得できる加速度センサーを備えているため、アプリでは眠気や集中力、また体軸の傾きを数字やグラフィックスで確認できる。
例えば運転中に、眠気があるというパターンを感知した場合、スマートフォンがアラームを出す。これを受けて運転者が休憩を取ることで、居眠り運転による事故を防止できる。また、仕事などの集中力が途切れそうになっていることを自分で察知して休憩することで、生産性の高い状態に戻れるようになる。
体軸については、例えば右に重心が寄っている場合、右足の故障をしやすいといった将来の故障の察知に活用できるほか、バランスの修正を心がけることもできるようになる。
こうした情報は無意識、つまり自分では普段気付くことができない情報ばかりだ。ウェアラブルデバイスには、全般的に「意識していない行動のデータ化」というテーマがあるが、JINS MEMEは、目と頭の動きを取得することで、これまで以上に正確に、気付けていないデータの取得を実現している。
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