いま、インターネット上の取り組みを実店舗の集客に生かす「O2O」が大きな注目を集めている。だがO2Oに類する取り組みは、日本ではフィーチャーフォンの頃からみられてきた。そこで今回は、過去から現在に至るまで、日本でモバイルを活用したO2Oに関するさまざまな取り組みを追いかけてみたい。
フィーチャーフォン時代からあるO2Oの取り組み
そもそもO2Oとは「Online to Offline」の略であり、インターネット上の行動から、実店舗の集客へ結びつける取り組みの総称を示している。SNS等の口コミと異なり、公式ページなどから実店舗への誘導を意図的に実施するのが、現在のO2Oが意味するところだろう。
“ネットから店舗に集客する”というO2Oの概念は非常に曖昧なことから、O2Oに向けた各社の取り組みも、非常にバリエーションに富んでいる。例えばNTTドコモが展開している「ショッぷらっと」や、スポットライトの「スマポ」などは、人の耳には聞こえない音波を発する装置をお店に設置し、専用のアプリを入れたスマートフォンがその音波を聞き取ることで、スマートフォン上にポイントやクーポンを発券。店舗近くを訪れた人の集客に結び付けている。
また、ヤフーとソフトバンクテレコムが提供し、イオンと協業して展開している「ウルトラ集客」では、Yahoo! Japanのバナーにキャンペーン広告を掲載し、そこからスマートフォンにクーポンを送信。それを店頭のクーポン発券機にかざしてクーポンを発券し、特典を提供することで、イオンの各店舗へと集客する取り組みを実施している。
急速に注目を集めるようになったO2Oだが、実はこのキーワードが広まる以前から、日本ではフィーチャーフォンを用いた、O2Oに類する施策が多数実施されている。例えば、携帯電話からメニューを選び、店頭で携帯電話をかざすことで、注文と支払いをまとめて実施する、日本マクドナルドのおサイフケータイを活用した取り組みなどは、現在でも先進性を感じさせるO2O施策といえるだろう。
飲食店でよく見られる、携帯電話のメールアドレスを登録した消費者に、新商品の情報や割引クーポンなどを送付してリピート率の向上につなげる“携帯メルマガ会員”の取り組みも、フィーチャーフォン時代から広く利用されているO2O施策の代表例だ。中には、メールマガジン会員の仕組みと、SNSサービスとを組み合わせることにより、双方の集客と収益化に結び付けた「mobion」(GNT)のような事例も存在する。
モバイルのO2Oで多くの成果を上げる位置情報ゲーム
フィーチャーフォン時代から実施されているO2Oの成功例として、メディアなどでも頻繁に登場するのが位置情報を活用したゲームである。この分野の代表的なゲームとしては、マピオンの「ケータイ国盗り合戦」や、コロプラの位置ゲープラットフォーム「コロプラ」などがあり、古くから熱心なユーザーを抱えている。
これらの特徴は、当然ながら位置情報を活用している点にある。ケータイ国盗り合戦であれば、ユーザーが現在地を登録することで、その場所周辺の“国”を制圧。これをさまざまな場所で繰り返し、日本全国を制覇するのが目的となる。一方コロプラの場合、位置情報を登録した“距離”に応じてポイントを取得し、それをゲームの内容によって、街作りやキャラクターの成長など、さまざまな要素に活用できる。
位置情報を活用したゲームの人気は、外出や出張が多いビジネスパーソンなどから火がつき、現在ではゲームを遊ぶために全国を駆け巡る、熱心なユーザーも多く見られるようになった。以前、筆者がケータイ国盗り合戦のファンイベントの取材をした際、何人かの参加者からは「全国制覇を2、3回している」、つまり日本全国を2〜3周したという声も聞いている。その熱心さは折り紙つきといえるだろう。
こうした熱心なユーザーの行動を、実際の消費行動に結び付ける取り組みは以前から行われている。コロプラの場合、全国各地の老舗名品店などと提携し、その店舗でゲーム上で同じアイテムが入手できるカード「コロカ」を提供。プレーヤーがそのお店を訪れ、一定額以上の商品を購入することで、金額に応じたコロカを入手できるという仕組みを構築した。これが地方に人の流れと消費を生むなど大きな成果を生み、最近では提携する店舗の銘品を一堂に介した物産展イベント「日本全国すぐれモノ市−コロプラ物産展」を開催、盛況を得るに至っている。
一方のケータイ国盗り合戦も、各地の交通機関や商店街などとタイアップし、さまざまなイベントを展開することで、集客に結び付ける取り組みを実施し、多くの成果を残している。最近の例では、7月24日にスタートした日本全国100の城を100日間で巡るスタンプラリーイベント「ケータイ国盗り合戦2013夏の陣『鬼の信長100日天下』」が挙げられる。8月1日からは、岩手県陸前高田市や福井県福井市など6カ所で、特定の商品を購入するとゲームの特典が付いたカード“くにふだ”が手に入るイベントを展開、各地への集客や滞在につなげる取り組みを実施している。
スマートフォン向けO2Oの注目株「LINE@」
フィーチャーフォンからスマートフォンの時代になり、さまざまな企業がスマートフォンを活用したO2O施策を展開するようになった。先に触れたショッぷらっとなども、スマホ活用に照準を合わせた例といえるだろう。
そうしたO2O施策の中でも、最近特に人気と注目を集めているのが「LINE@」だ。これは、LINE上で利用できる、店舗やメディア、自治体などに向けたビジネスアカウントサービス。店舗のアカウントを作り、それをユーザーに“友達”として登録してもらうことで、お店の最新情報や割引クーポンなどをユーザーにダイレクトに送信し、集客につなげるもの。月額5250円で最大1万人のLINEユーザーに情報を配信できるなど、低料金で利用できるのが特徴だ。
サービス内容に加え、LINEを携帯電話のEメール代わりに利用している人も多いことを考えると、LINE@はスマートフォン時代のメルマガ会員サービスというべき存在といえる。その効果やユーザーに与える影響も非常に大きいことから、採用する店舗が急速に増えているようだ。筆者が見た限りでも、小規模の飲食店から大手百貨店、さらには宅配専門の飲食店に至るまで、幅広いジャンルでLINE@が採用されている。
LINE@がメルマガ会員サービスと決定的に違うのは、LINEが“クローズド”な存在だということ。Eメールはオープンであるため、例えばITの知識を持たない個人店の経営者がメルマガ会員サービスを始めようとした場合、どの業者に依頼し、どうやってサービスを運営すればいいのかよく分からず、諦めてしまうケースも考えられる。だがLINEは1社で管理されているクローズドなサービスであるため、LINE@を開始するにはLINE社に問い合わせればよく、分かりやすいというのは大きい。
一方で、先にも触れた通り、LINE@は実店舗を持たない企業は利用できないなど、利用できる業種が限られる上、同時に情報配信できるユーザー数にも制限がある(追加料金を支払うことで増加は可能)などの問題もある。それゆえ大きな企業の場合、高額だがより柔軟性がある、企業向けの公式アカウントを用いてユーザーに情報を配信するケースが多いようだ。
他にもLINEは、店頭の商品にシリアルコードを付け、それをLINEで入力するとスタンプがもらえる「LINEマストバイ」など、さまざまなO2O施策を展開。世界で2億のユーザー数を獲得した土台を武器に、O2Oの分野でも影響力を高めようとしている。
“その場所限定”を実現するWi-Fiを使ったO2O施策
もう1つ、スマートフォンを活用したO2Oの潮流の1つとして「Wi-Fi」も取り上げておきたい。スマートフォンの普及により、最近はキャリアを中心に、いくつかの企業が無線LANのWi-Fiスポットを急速に増やしている。このWi-Fiスポットを活用したO2O施策というのも、最近では増加しつつある。
従来、Wi-FiをO2Oに活用する取り組みとしては、Wi-Fiスポットの利用範囲の狭さを生かし、接続した位置を特定するものが多かった。だが最近は、位置情報取得としての活用だけでなく、“その場限定”のコンテンツを提供するためにWi-Fiを活用するケースが増えているのだ。
こうした取り組みに積極的なのが、Wi-Fiスポットの構築を手掛けるNTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)である。同社は、Wi-Fiスポットに接続している時だけ利用できる、その場所限定のコンテンツを提供することで、Wi-Fiの利用を活性化するとともに、新しい価値の創出につなげている。
具体的な例がセブンアンドアイホールディングスの取り組みだ。同社は、NTTBPがグループ内の店舗に構築したWi-Fiスポット「セブンスポット」を活用し、その中で限定のオリジナル壁紙をプレゼントしたり、ニンテンドーDS用のコンテンツを配信する「ニンテンドーゾーン」などを展開。店舗に行かないと手に入らないコンテンツを提供することにより、集客へと結びつけている。
同じく、NTTBPがWi-Fiスポットの設置を手掛けた西武ドームの「Lions Wi-Fi」では、リアルタイムで試合の対戦情報を提供するなど、その場でしか得られない情報を提供する取り組みを実施。これにより、試合観戦に訪れたユーザーの満足度を高め、リピートにつなげる狙いがあるようだ。
ここまで紹介してきたように、日本においては、モバイルを活用したO2Oは、新旧合わせてユニークで先進的な取り組みが多くなされている。海外で話題になったことから、日本でも注目されるようになったO2Oだが、その取り組みは日本が先行していたことを覚えておきたい。
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