IVIとはIn-Vehicle Infotainmentの略語であり、Intelが車載情報機器を示す単語として提言したものだ。
Intelは自身で提言する程に車載情報機器分野に注力している。それは車載用の「Atom」などのプロセッサ製品だけにとどまらず、OSを含めたプラットフォーム開発にも及んでいる。「Tizen IVI」の成り立ちは、IntelがLinuxベースの車載情報機器向けプラットフォームの開発に挑んできた長い道のりでもある。
本稿では、そのIntelのみならず、トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーやティア1サプライヤ、半導体メーカー、ソフトウェアベンダーなどが開発に参画している車載情報機器向けプラットフォームTizen IVIについて前後編に分けて解説する。
「Moblin」から始まる長い道のり
車載情報機器向けLinuxディストリビューションの構想は「Moblin」までさかのぼる。Moblinは、Intelが主導する形で2007年に立ち上げられたオープンソースプロジェクトだ。
Moblinはネットブックやモバイル端末を主なターゲットとなっていたが、並行して車載情報機器向けの「Moblin for IVI」も開発されていた。
これと同時期に、モバイル端末メーカーであるNokiaも、「Symbian OS」に代わる携帯電話機向けOSを「Maemoプロジェクト」で開発していた。MaemoもMoblinも、オープンソースのモバイル端末向けLinuxディストリビューションの開発を目標としていた点では同じであった。
2009年6月、IntelとNokiaは、携帯電話機やモバイル端末、それらに用いるチップセットの開発で提携することを発表。その一環として、2010年にMoblinプロジェクトとMaemoプロジェクトが統合し、「MeeGoプロジェクト」となった。MeeGoは、The Linux Foundationのオープンソース協業プロジェクトとして再スタートを切ったのである。
MeeGoは、MoblinやMaemoでターゲットにしていたモバイル端末、ネットブック、車載情報機器に加えて、スマートテレビなども視野に入れたマルチデバイスプラットフォームを目指した。
MeeGoプロジェクトは順調にバージョンアップを続けていった。最終的には、MeeGoを搭載した携帯電話機「Nokia N9」(細かいことを言うと、Nokia N9はMaemoをベースに、MeeGoの成果の一部をマージしたOSを搭載していたが、実際にはMeeGo端末として認識されている)がリリースされたし、車載情報機器向けの「MeeGo IVI」は、車載情報機器向け標準プラットフォームの開発を進めていたGENIVIアライアンスのリファレンスになるという成果を上げている。
しかし2011年2月に、NokiaがMicrosoftの「Windows Phone」採用に注力するため、MeeGoプロジェクトからの撤退を表明する。撤退理由は、Appleの「iOSプラットフォーム」やGoogleの「Androidプラットフォーム」による既存の携帯電話機のエコシステムの破壊と、それに替わるスマートフォン市場の立ち上がりに対して、MeeGoではこれらのプラットフォームに太刀打ちできるエコシステムを構築できないと判断したためとされている。
MeeGoプロジェクトはNokiaの撤退により、最初で最後の携帯端末Nokia N9をリリースして幕を閉じることとなる。
余談ではあるが、NokiaでMeeGoプロジェクトをけん引していた開発部隊は、その後Jollaという企業を設立し、MeeGoベースの「Sailfish OS」を開発した。2013年5月には、Sailfish OSを搭載するモバイル端末が発表されている。
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