生きていれば、日々決断を迫られる。「今日のお昼ごはんはどうしよう」というような“決断”は多くのビジネスパーソンが日々していることだろうし、例えば会社の人事担当者なら「この人を採用するか否か」、トレーダーなら「この銘柄の株に投資するか否か」といった大きな決断をすることも多いだろう。
「人が決断を下すまでのプロセスは大体同じ。多くの人は経験に基づいて決断を行うが、その精度には限界がある」と話すのはIBMのシニア・バイスプレジデント、マイク・ローディン氏だ。確かに人間は誤った選択をすることも多い。自分自身が持つ考え方や意見が判断を迷わせることもある。
偏見をなくし、事実だけを基に意思決定ができるなら——。IBMのスーパーコンピュータシステム「Watson」は今後、生活のありとあらゆる場面で、人間の決断を支援してくれる頼もしいパートナーになるかもしれない。IBMのユーザー向け年次カンファレンス「IBM Insight 2014」では、この「Watson」の実用化へ向けたさまざまな取り組みが紹介されている。
Watsonの大きな特徴は2つ。1つは人間の自然言語(話し言葉)を認識、理解してデータを参照できること。もう1つは莫大なデータ(知識)を蓄積することで“学習”していくことだ。2013年度のカンファレンスでも「がん治療」におけるWatsonの可能性が示されていたが、今回は医療、金融、料理という3分野でWatsonの英知を生かしたアプリケーション「Watson Application」が発表された。
個人個人に合わせた「がん治療」を実現する
まずは医師のがん治療をサポートするシステム「Watson Oncology」だ。Watsonが膨大な量の医学文献や患者の症例を蓄積することで実現する。患者の症状を入力し、Watson Oncologyに治療方法を質問すると、患者に合わせた最適な治療計画が示される。示された治療法はすべて点数化されており、点数の根拠も示してくれる。
投薬についても同様だ。患者に向く薬が一覧でき、副作用などのリスクも根拠とともに表示してくれる。「医師が回診するときに、手にしたiPadで治療計画がすぐに表示されるのは便利だろう」とローディン氏はアピールした。このWatson Oncologyを活用した治療は、ニューヨークにあるメモリアルスローンケタリングがんセンターで始まっているという。
Watson Oncologyが実現するのは、個人ごとにカスタムしたがん治療だ。「乳がんだから、肺がんだからといった病名で治療を決めるのではなく、個々の患者に最適化したアプローチができるようになる」(ローディン氏)
次は個人の資産運用をWatsonが助けるシステム「Watson Wealth Management」。例えばある会社に投資をしようとしたときに、会社の業績やアナリストのコメント、Web上に掲載されたその会社に関する記事といった情報が一覧でき、投資すべきかどうかWatsonが点数化してくれる。このほか、Watson側から投資すべき案件を勧める機能もある。
ビジネスのサポートもしてくれる。取引相手の会社内外の情報や投資履歴を一覧で表示してくれるほか、会議で予想される問答などもあらかじめ提示してくれるという。相手がどれだけリスクを負う覚悟を持っているのか、といった傾向もWatsonが数値化してくれる。Watsonはその道に精通した業界人よりも信頼のおける秘書になってくれるかもしれないのだ。
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