電子書籍を単なるプリントレプリカで終わらせない取り組みが、国内外から生まれている。ここでは、注目の動きを2つ紹介したい。
謎を解いたら極上の体験があなたを待つ サイバードの「NAZO(ナゾ)」
最初に紹介したいのが、サイバードが発表した謎解き絵本アプリ「NAZO(ナゾ)」。この絵本アプリは、物語内で出てくる数々の謎を解き明かしながら、最後には本当の『宝』を獲得できるチャンスを得ることができるというもの。App Store、Google Play、Amazon AppStoreで世界各国に向けてリリースされた(対応言語は日本語・英語・中国語(繁体字)・スペイン語版がある)。
企画としてのNAZOの特徴は大きく2つ。1つは、豪華な制作陣。
構成は、編集工学者の松岡正剛氏が卒いる編集工学研究所が手掛けており、物語と謎の複合的な組み合わせによる世界観が構築されている。これには、編集工学研究所の「物語母型群」というソリューションが活用されている。物語母型群とは簡単に言えば、物語というのはどれもある種の構造(型)を持っていて、たくさんの作品からそうした汎用的な構造を抽出し、シナリオメイキングから物語ブランディングまで広範な分野で活用しようとするものだ。
ビジュアル面では、日本を代表するクリエーター集団である Studio4°Cが全てのビジュアルを担当。また、ユーザーインタフェースは「ゲームニクス論」などでも知られるサイトウアキヒロ氏が監修している。文字、ビジュアル、音楽、UIとコンテンツを構成するさまざまな分野の一線級のノウハウがつぎ込まれたコンテンツとなっている。
もう1の特徴は、読者/ユーザーへのインセンティブ。NAZOでは謎を解くことで最終的に「宝」が得られるようになっている(謎へのチャレンジはチケット制となっており、ここで課金要素があるが、課金せずとも読み進めることはできる)が、この宝が魅力的なものばかり。
一例を挙げると、片山右京氏が率いる「Team UKYO」チームの一員として一週間帯同したり、プロ野球オリックス球団が主催する京セラドームのゲームでの始球式、重要無形文化財保持者である梅玉丈直々の解説を聞きながら歌舞伎座の桟敷席で歌舞伎を鑑賞できる時間など、胸を躍らせるような体験が宝となっている。なお、同社ではアプリ内の販売収益を音楽教育プログラム「エル・システマ」の活動支援に充てるという。
世界規模のサバイバルゲーム小説に? Googleも参加する『エンドゲーム』
そしてもう1つ注目したいのが『エンドゲーム 〜ザ・コーリング』。Google、20世紀フォックス、HarperCollinsが組んで全世界規模で仕掛ける大型企画だ。3年連続で刊行予定のシリーズ第1弾が本書で、10月7日に世界30カ国で同時発売される。日本では学研パブリッシングから発売予定で、同日に電子版の配信も始まる。
『エンドゲーム・コーリング』を一言で言えば、ストーリーに隠された謎やパズルの謎を解き明かすゲームブックだが、ゲームや映画も絡めた企画となっているのが特徴。現実を舞台にした“世界規模の陣取り合戦”としてGoogleの位置情報ゲーム「Ingress」が話題になっていることをご存じの方も少なくないと思うが、Ingressを開発したGoogleの社内ベンチャー「Niantic Labs」が本企画のゲームを開発中で、間もなくβ公開される見込みとなっている。また、映画も1巻発売からほどなくしての公開が予定されている。
謎を解いた者に与えられる賞金額はスケールが大きい。第1巻では、世界で一番最初に謎を解いた人に50万ドル(約5000万円)が贈られる。ちなみに副賞は、向こう10年でGoogleがリリースする新技術の使用権。第3巻では賞金は150万ドル(約1億5000万円)、副賞は宇宙旅行が予定されている。特設ページでは書籍発売までのカウントダウンと、簡単な概要を知ることができる。
ゲーム要素をブレンドしたり、巨額の賞金や体験型のインセンティブを用意するなど、本だけで完結しない取り組みが従来にない読書体験となっている印象を受ける。特に、エンドゲームに市場がどういった反応を見せるのか、eBook USERでは引き続き注目していきたい。
Copyright© 2014 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.