小学館のWebコミックサイト「裏サンデー」。2012年5月「漫画界のルールと伝統をぶちこわす」を合言葉に、週刊少年サンデー編集部の有志によって始まった同サイトは、立ち上げ当初から『モブサイコ100』(ONE)、『ケンガンアシュラ』(原作:サンドロビッチ・ヤバ子 作画:だろめおん)、『ヒト喰イ』(原作:MITA 作画:太田羊羹)などの人気作を掲載。オープン2年で月間ユニークユーザー(UU)120万、月間ページビュー(PV)2700万を突破する人気Webコミックサイトとなった。
その裏サンデーがいま、「オモシロそうなこと」を求めて、リアルイベントやアプリ開発などの新たな取り組みをスタートさせている。一体裏サンデーはこれから何をしていくのか、裏サンデー編集部の編集長・石橋和章氏と編集の小林翔氏にお話を伺った。
新たな風を呼び込む——そのカギは“パートナー企業”にあり
—— 7月に週刊少年サンデー編集部から独立したとお聞きしました。独立したことで何か変化はありましたか?
石橋和章氏(以下、石橋) 決定スピードが格段に早くなりました。編集部員は立ち上げ時と同じ3人という少人数でスタートしたので円滑に動けるようになりましたね。『週刊少年サンデー』というブランドは使えなくなりましたが、その代わり自社内のいろいろな媒体と協力できるというメリットも生まれました。
—— 現在新たな取り組みを始められていますが、詳しく教えてください。
小林翔氏(以下、小林) 裏サンデーでは5月ごろから、企画やイベントを共催するパートナーを募集していまして、応募いただいた数十社の中から3社と事業を展開することになりました。すべての企業と組んで企画を始めたかったのですが、僕らの人手が足りないため、まずは第1弾として裏サンデーらしい”新しくオモシロイこと”ができそうなpixiv、零狐春、LINK-Uさんと企画を始めることにしました。
—— pixivとの企画では作画担当を募集していますが、どういった意図があるのでしょう。
石橋 読者の中には、裏サンデーのマンガはこういうものだという“裏サンデーらしさ”みたいなイメージを持っている方がたくさんいまして——
—— 裏サンデーらしさ、というのは?
石橋 いわゆるWebマンガらしい、尖った作品のことですね。現在、裏サンデーでは第3回の連載投稿トーナメントを開催中ですが、そういった作品が数多く寄せられています。もちろん尖った作品も必要ですが、どんなマンガでもオモシロければそれでいいと思うんです。なので、裏サンデーらしさみたいなものは今のところなくてもいいと考えています。
そういった意味で、ちょっと毛色が違うpixivのクリエイターさんたちに裏サンデー作品の作画をしてもらうことで、いろんな方向性を持った作品を増やしていく、といった狙いがあります。
マンガが読めるだけじゃない、裏サンデーが目指すアプリとは
—— 今回の取り組みではアプリの開発も行われていますが、なぜサイトのオープンから2年以上経過した今、アプリを作ることになったのでしょうか。
石橋 裏サンデーの月間UUは120万で、この数字は国内のWebコミックサイトでは最大級だと思うのですが、ブラウザ版の限界だとも思っています。作品を増やしても、120万という数字からなかなか増えていかない。一方で、comicoやLINEマンガのようなアプリでは、500万〜700万ダウンロードというびっくりするようなダウンロード数になっている。新規の読者を増やそうと思ったら、アプリを作る必要があるんです。
—— どんな機能を実装する予定ですか?
石橋 詳しくはまだ開発中なのでお話しすることはできないのですが、コンテンツフリーの問題をどうにかしたいとは考えています。
—— 裏サンデーの作品は誰でもダウンロードできるようになってますよね。アプリではそういったことはできないようになるということですか?
石橋 まだそこはシークレットということで(笑)。10月には何かしら発表ができると思いますので、もう少しお待ちください。
—— 楽しみにしています。裏サンデーといえば、初期のころは作品のアーカイブを公開していましたが、なぜやめてしまったのでしょう。
石橋 正直にいってしまうと、アーカイブを公開することで、コミックの売り上げが伸びなかったからです。何度も何度も繰り返し読むことで、読者の中でそのコンテンツの魅力が薄れていき、簡単にいえば飽きてしまう。実際にアーカイブの公開をやめてから、コミックの売り上げは伸びました。
そういうことも含めて、アプリでは新しい仕組みを導入しようと思っています。全話を無料で公開したりはせず、課金制を導入したり。いまのような無料で毎日読めるという感覚は残しつつ、もう少し新しいことを取り入れる予定です。
小林 読者のためを思うと、どうしてもサイトは無料で作品を公開するようになります。でも、ずっとそれをやっちゃうと、作家や作品の価値を下げることにつながる。作家がどれだけがんばっても、無料なのが当然ということになり、オモシロいものを作った対価が支払われないと、若いクリエイターにとって魅力的な場でなくなってしまう。
石橋 それを原稿料という形で補うことはできるんですが、私たちが利益を出さないとそういうこともできないので、アプリでは作家に何かしら還元できるような仕組みも導入していくつもりでいます。これ以上は、また10月にお知らせできたらなと思います。
—— 裏サンデーでは、作家さんへ利益を還元することをかなり重要視されているように感じます。
小林 僕らはWebで公開しているけど、雑誌のマンガよりもオモシロさが負けているとは思っていません。Webコミックって、雑誌よりも原稿料が安いというイメージがあるかもしれないですが、むしろ裏サンデーでは紙と同じかそれ以上支払っています。
石橋 コンテンツに対してお金を支払わないという習慣が、日本人の中でだんだん広まっているんじゃないでしょうか。音楽にしろ、ゲームにしろ、コンテンツにお金を支払わないという意識はおかしいんじゃないかと思っていて、その空気を少しでも変えていきたい。目指すは、日本一原稿料が高い編集部です。
作家と読者が一緒に楽しめる場、それが裏サンデー
—— 『モブサイコ100』のTシャツ販売など、グッズにも力を入れていますね。
小林 『モブサイコ100』の企画はデザイン総選挙という形で、読者の投票でTシャツのデザインを決めました。裏サンデーでは、作家と読者が一緒に盛り上がるという文化祭みたいなお祭り感を大事にしていて、デザイン総選挙はまさしくそういったイベントでした。
—— LINK-Uや零狐春はいずれもできて間もない企業や団体ですが、パートナーに選んだ決め手は何だったのでしょう。
石橋 やはり、若くて、考えが柔軟で、発想が新しいからですね。私たちは自分たちのことを社内ベンチャーだと考えているので、組むなら同じベンチャー企業や学生だろうということで。LINK-Uはまだできて2年目ですし、零狐春は学生団体なんですけど、開拓精神やチャレンジ精神といったものを持っていて、一緒にやりたいと思わされました。
石橋 思いついたらやってみる。オモシロいことをかたっぱしからやってみて、どれか事業化できたらいいなぐらいの心構えでいます。なぜリアルイベントをやるのかといわれたら、それは“オモシロそう”だからです。もちろん企業である以上は利益を出していかなければならないですけど、チケットが完売しても黒字になるかどうか(苦笑)。
小林 でも、イベントをやることで経験にもなりますし、今度はもっと大きなイベントを開催できるようになるかもしれない。編集業務とイベントと宣伝はそれぞれ別の担当者がやるのが一般的ですが、裏サンデーでは1人の編集が全部やる。作品を担当しながら新しいことを始めるにはとても少数ですが、社内にいながら独立したベンチャー企業にいる感覚なので、これからも読者が楽しめる作品や、企画を生み出せるようにしていきたいと思っています。
石橋 これからも企業や団体と協力して、さまざまなイベント・企画を行っていくつもりです。ご期待ください。
関連記事
- 迷宮を攻略せよ——裏サンデーの謎解きリアルイベントを開催
東京・秋葉原に『マギ シンドバッドの冒険』に登場する迷宮「バアル」が出現。裏サンデーのキャラクターたちや参加者同士で協力して、攻略を目指せ! - 裏サン人気作家のコラボ作品がもらえる「裏サン感謝祭!」が盛り上がりそう
裏サンデーの4作品が同時発売。さらに新刊を買うと発売作品同士でコラボした小冊子がもらえる。 - 漫画を「1人でも多くの人」に届けられるのは今——60万UU突破「裏サンデー」の挑戦
小学館の漫画サイト「裏サンデー」が好調だ。雑誌の既成概念にとらわれないサイト作りが功を奏し、1カ月で60万ユニークユーザーを突破。スマートフォンやSNSが普及する今、1人でも多くの読者に作品を届けられる媒体は何なのか——サイトを有志で立ち上げた編集者らは、Webにその答えを見出そうとしている。 - 小学館が本気出した!? 無料漫画サイト「裏サンデー」オープン
無料で漫画を平日ほぼ毎日更新——そんな太っ腹な小学館のWeb漫画サイト「裏サンデー」がプレオープン。さっそく掲載漫画を読んでみてはいかが? - 「漫画界のルールと伝統をぶちこわす」——小学館の「裏サンデー」はWeb漫画の“爆弾”となるか
小学館が、「漫画界のルールと伝統をぶちこわす」というWeb漫画サイト「裏サンデー」を突如告知。参加作家には、春原ロビンソンさんをはじめとするネットの人気クリエイターがずらりと名を連ねている。一体、何が起きようとしているのか。
関連リンク
Copyright© 2014 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.