宇宙は古今東西変わらず、人々の興味をひきつけてきた。1969年にアポロ11号が月面着陸した際には、全世界で6億人が生中継を見たと言われている。また近年、日本では2010年に小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還して社会現象となったのは記憶に新しい。現在、千葉県千葉市の幕張メッセで開催中の「宇宙博 2014」は8月28日時点での累計入場者数が20万人を超えるなど大きな盛り上がりをみせている。
筆者は普段、経営コンサルタントとして、ハイテク・IT業界および自動車業界を中心に企業や政府系機関に対してコンサルティングサービス、講演などを行っている。宇宙の専門家ではない筆者がなぜ今回宇宙ビジネスについて語っているのか、疑問に思う読者も多いと思うので、そのわけを共有したい。
1つは、昨今米国中心に民間主導型の“宇宙ビジネスビッグバン”とも言える活況が起きており、その背景にシリコンバレーの存在やIT、エレクトロニクス、ロボティクス分野との融合が関係しているからである。2014年に入り、米Googleが無人機(ドローン)企業の米Titan Aerospaceや、超小型衛星ベンチャーの米Skybox Imagingを相次いで買収したように、こうした産業にとって、宇宙分野は事業領域あるいは投資対象として見られるようになってきている。従来、宇宙業界とはかかわりの薄かったテクノロジー業界から見た宇宙ビジネスの最前線をひも解きたいと考えている。
もう1つの理由としては、筆者自身、宇宙には幼きころより興味があり、ここ2年ほどXPrize財団が主催する「Google Lunar X Prize(GLXP)」という月面無人探査国際レースに日本から参戦している宇宙開発チーム「ハクト」にてボランティア活動を続けている。昨年チリで行われたチームミーティングでは世界中から多様なベンチャー企業が一堂に会したが、そこでは人類の未来を変えようとする大きな流れを感じた。
以上のような背景から、本コラムではIT、エレクトロニクス、ロボティクスと融合して加速する宇宙ビジネスとテクノロジーの最前線を紹介していきたい。
宇宙ビジネスに積極投資する起業家たち
ラリー・ペイジ、イーロン・マスク、ジョフ・ベゾス、リチャード・ブランソン、エリック・シュミット、いずれもテクノロジー&ビジネス界の大物であるが、実は近年、宇宙ビジネスに投資しているという共通点がある。惑星移住、資源探査、宇宙旅行など、彼らの掲げるビジョンは極めて壮大だ。これまで宇宙産業とはかかわりの薄かった新しいプレイヤーが参入し、宇宙ビジネスビッグバンと言える現象が米国で起きている。
背景には、NASA(National Aeronautics and Space Administration)と米国政府が約10年前から行ってきた、特に地球低軌道を中心とした商業化政策がある。宇宙開発予算が限られる中、NASAは当該領域において民間の力を活用する方針を打ち立てた。産業育成のために専門家を雇い、シリコンバレーの技術投資&事業開発モデルを導入してきた。
1つはNASAが民間のサービスを購入するプログラムであり、特に国際宇宙ステーションへの輸送に関しては「COTS(Commercial Orbital Transportation Services)」(2006年〜)、「CRS(Commercial Resupply Services)」(2008年〜)というプログラムで民間企業を募り、既に契約を交わしている。併せて、民間への技術開発支援や技術移転プログラムとして「SBIR/STTR(Small Business Innovation Research and Small Business Technology Transfer)」なども立ち上げてきた。
こうした流れの中でNASAとCOTS/CRSの契約を勝ち取り、宇宙輸送ベンチャー(ロケットおよび宇宙船の開発、製造、打ち上げサービス)の雄としてのし上がったのがイーロン・マスクの率いる米SpaceXである。イーロン・マスクはEV(電気自動車)ベンチャー、米Tesla MotorsのCEOとしても有名であるが、実はSpaceXの方が設立年度は古い。
SpaceXの取り組みは既に多方面で分析されているので詳細割愛するが、目指す大きな方向性はロケットの低コスト化だ。そのために自社設計、モジュール構造、量産化などを行い、既に従来比で10分の1程度のコストまで下げている。現在はロケット再利用化のための機構と制御の確立に対する実証を進めており、また、人類の火星移住に向けた輸送システムの確立も同時に進めている。
こうした輸送手段の整備、低コスト化の恩恵を受けて、新しい投資家や起業家が参入してきたのが、小型衛星分野、惑星探査分野、BtoC分野(宇宙旅行や宇宙ホテルなど)である。彼らは資金とともに、新しい開発手法、新しい事業モデル、新しい顧客を持ち込んできた。地球観測用の超小型衛星ベンチャーとして有名な米Planet LabsやSkybox Imagingは、自社の強みを“Agile development(アジャイル開発)”や“Data analytics platform(データ分析プラットフォーム)”と定義しており、宇宙ベンチャーというよりもITベンチャーに近い。
Space XやPlanet labsに投資する有力ベンチャーキャピタル(VC)の米DFJ Ventureは「ソフトウェア産業として投資している」と発言しておりとても興味深い。彼らは「今の宇宙産業はインフラ環境の整ったインターネット産業の黎明期に似ている」とも言っている。また、惑星探査ベンチャーの有力企業である米Astroboticは月面無人探査機を開発しているが、中心となるメンバーは市街地環境での自動走行車コンテスト「DARPAアーバン・チャレンジ(2007年)」で優勝経験のある、フィールドロボティクスの権威である。コア技術の一つである“SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)”は自動車分野への転用も期待されている技術だ。
このように、新しいプレイヤーや新しい手法が宇宙ビジネスをけん引し始めており、そこにはIT、エレクトロニクス、ロボティクス分野が密接に結び付いているのだ。次回以降では、宇宙との交差点で何が起きているのか、さまざまな領域で起きている動きや事例などを見ていきたい。
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