2013年9月のiPhone取り扱い開始に始まり、ここ最近のNTTドコモは「攻勢に転じた」感がある。2014年の春商戦ではCMキャラクターとして、NTTグループで初めて外国人タレントのOne Directionを起用。そして6月には携帯電話初の完全音声定額サービス「カケホーダイ」と家族間でパケットパックを共有する「パケあえる」を投入。9月2日にはカケホーダイ&パケあえるの契約数が、800万を突破するなど好調だ。ドコモは端末競争、LTEエリア競争に続き、新たに料金競争の口火を切った。
攻勢が続くドコモは今どのような状況にあり、年末に向けて何を目指すのか。NTTドコモ代表取締役副社長の吉澤和弘氏に話を聞いた。
「他社はコピーしかできなかった」——料金競争で先手を打つ
—— ドコモは完全音声定額サービスで他社に先駆け、かなり好調に加入者を伸ばしています。そこであらためて、新料金プランを投入した背景や狙いについて伺えますか。
吉澤氏 新料金プランの導入については、2013年9月のiPhone投入前から検討していました。2013年の夏くらいからスマートフォン移行の動きも少しずつ緩やかになってきましたし、キャリア間のキャッシュバック競争が激化してしまい市場環境が不健全になってしまった。ドコモとして、もっと長期契約をしていただいているお客様を大切にしていかなければならない。そういった諸々のことを踏まえますと、(社内的に)「料金体系に踏み込まなければならない」という考えになっていました。
—— iPhone導入以前から、「スマホ時代の新たな料金体系を作る」という機運があったわけですね。
吉澤氏 ええ。iPhone導入で大わらわになり、当初考えていたよりも(新料金プランの)投入が遅れてしまいましたが。
しかし、iPhoneを導入したことで3キャリアの差異性が小さくなり、他方で競合他社が当時在庫品だったiPhone 5に多額のキャッシュバックを積んで売るといったことも行った。そういったこともあって、新料金プランの必要性をますます強く感じるようになりました。いわば、競争のステージを変える必要性を感じたのです。
—— この数年を振り返ると、iPhoneの獲得競争、LTEのエリア競争ともに、“ソフトバンクやKDDIが先に競争を仕掛けて、その土俵にドコモが後追いして乗る”という状況が続いていました。誤解を恐れずに言えば、ドコモは先手を打てず、他社に対して後手後手にまわっていた感が否めない。競争軸をソフトバンクやKDDIが作ってしまうので、ドコモは常に不利な戦いを強いられました。
しかし今回の新料金プランは、ひさしぶりに「ドコモが仕掛けた競争軸」になります。実際、ソフトバンクやKDDIはドコモにすぐに追随できず、あたふたと後手にまわることになった。ドコモ側から料金で競争を仕掛ける、というのは強く意識されたのでしょうか。
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吉澤氏 競争のステージを変えたいと考えました。長くドコモをお使いいただいている方々や、家族でドコモを使っていただいている方々。そして学生さんをはじめとする若い人たち。こういったドコモにとって大切なお客様が、使いやすくてお得な料金体系というのはどういうものなのか。「家族単位で、長くドコモを使っていただく」ことを軸に、競争の軸を変えたものが新料金プランといえます。
—— これまでのドコモはユーザーの賛否が分かれるような施策を行うことはほとんどなかった。しかし今回の新料金プランは、長期契約者と家族契約、若年層には明確なメリットが提示された一方で、そこから外れるユーザーからは不満が出る部分もある。つまり「賛否が分かれるもの」なわけですが、これをドコモがやったというのはかなり異例なことに思えます。
吉澤氏 そうですね。(新料金プランは)家族などグループ単位の契約に関しては明確にメリットが現れますが、個人単位の契約では割高に見えてしまう部分はあるかもしれません。しかし、そういった方々には2台目以降のスマートデバイスが使いやすいなど、新料金プランならではの特徴を作ったつもりです。
また個人契約の方にまったくお得さがないかというと、そんなことはなく、長期契約をしていただくことで新料金プランのメリットは確実に出てきます。お客様には、そういったところをしっかり見ていただければと考えています。
—— ドコモが今回、新料金プランを投入したことで、KDDIやソフトバンクモバイルも対抗プランを投入してきました。これらについてどのようにご覧になっていますか。
吉澤氏 音声定額部分は完全に弊社のコピーですね。あそこまで横並びで来るのはどうなのかな、と。ちょっと苦し紛れといった感が否めませんね(苦笑)。
ソフトバンクが2014年1月に条件付きながら音声定額サービスを発表したわけですが、その後の(ソフトバンクの)二転三転を見ていると、ソフトバンクをはじめ、他社はもう少し高い価格帯での音声定額サービスを考えていたのではないでしょうか。しかしドコモが完全音声定額サービスを先に発表してしまったので、それへの対抗をせざるを得なくなった。我々としては他社は(ドコモのカケホーダイよりも)少しでも価格を下げてくるのかな、と警戒していたのですが、そっくりそのままコピーされた内容で拍子抜けでしたよ。
—— 個人的には、ドコモが先に提示した音声定額サービスの料金を下回れなかった時点で、KDDIとソフトバンクモバイルは、この分野において「敗北した」と評価しています。最近では一部で、音声定額サービスによって各社横並びの基本料金になったと批判されていますが、その横並び状態を作ったのは、価格競争をはじめから放棄したKDDIとソフトバンクモバイル側です。
吉澤氏 我々はカケホーダイ導入前に綿密なシミュレーションをしましたので、競争とはいえ、他社が大胆な価格競争を仕掛けてくるのは難しいとも予想していました。しかし、ここまで同一価格でこられるとは思いませんでしたよ(笑)。
—— 一方で、パケット利用料のプランについては各社が少しずつ違いを出しています。KDDIが2014年12月から家族間でのパケット利用量をギフトという形でやりとりできるようになり、ソフトバンクモバイルのスマ放題では利用量の繰り越しができる、という特徴を持っています。特にソフトバンクの繰り越しは、スマホユーザーの評判も悪くないようです。
吉澤氏 繰り越しは適用条件がありますし、必ずしも効果的だとは我々は考えていません。しかしシステム的には、ドコモもすぐに繰り越し機能を実現できますので、そこは様子を見ています。KDDIのギフト機能は、家族間でギフトをやり取りするというのは(ユーザー側の対応が)少し複雑すぎるのではないかと考えています。
—— 冷静に考えれば、家族間でギフト機能を使っていちいち送り合うよりも、家族でドコモのパケットシェアを使った方が簡単に家族内でパケット利用量の適正化ができますよね。前者はユーザーがいちいち判断・操作をしなければなりませんが、後者は自動的にシェアされるわけですから。
MOUは2倍に、音声サービスの拡充が今後の鍵
—— 今回の新料金プランは完全音声定額サービス「カケホーダイ」と、パケット利用量を効率的に分けられる「パケットシェア」の二本立てなわけですけれども、導入後の反応をみて、お客様の評価が高いのはどちらですか。
吉澤氏 個々のお客様によって使い方やニーズの違いがあるわけですが、我々としての手応えでいえば、お客様の評価が高いのは「カケホーダイ」の方です。ここはメリットが明確ですし、利用いただいたお客様の満足度も高い。我々としては手応えを感じています。
—— カケホーダイユーザーのMOUは伸びているのでしょうか。
吉澤氏 伸びていますね。カケホーダイに入ったお客様のMOUは2倍くらい高くなります。これまでの従量課金制の電話料金には、“電話をかけること”への抑制効果があったのだと感じますね。これが取り払われることのメリットが、カケホーダイでは思いのほか大きい。
—— それだけMOUが伸びるのであれば、音声系の新サービスの可能性もありそうですね。
吉澤氏 それは考えられますね。まずはVoLTEを導入していますが、そういったインフラ技術だけでなく、アプリケーションレイヤーでも音声コミュニケーションにはまだまだ可能性があると感じます。
—— 高機能・高付加価値なボイスメールサービスを作るのはいかがでしょうか。アメリカでは回線交換の時代からボイスメールサービスが発達していて、先に発表されたiOS 8でも、VoIPベースでMessageアプリにボイスメール機能が組み込まれました。日本では単なる留守番電話サービスとなっていますが、ボイスメール関連は掘り下げればさまざまな可能性があると思うのですが。
吉澤氏 まだ、そこまで掘り下げて考えてはいませんが、将来的には音声サービス系のアプリケーションはいろいろ検討していかなければいけないと思います。
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